2017年11月3日金曜日

英中銀総裁「アクセルから足外す時」 10年ぶり利上げ

 【ロンドン=篠崎健太】英中央銀行のイングランド銀行は2日、金融政策委員会で政策金利を過去最低の0.25%から0.50%に引き上げることを決めたと発表した。利上げは2007年7月以来10年4カ月ぶりで、08年秋に起きた金融危機後では初めて。通貨ポンド安により勢いづく物価高を抑える。ただ今後の利上げは「非常に緩やか」とし、正常化には時間をかける方針を強調した。

 米国とユーロ圏に続き金融緩和策の縮小にかじを切った。9人の政策委員のうち、カーニー総裁を含む7人が利上げを支持。金利と並ぶ政策手段である資産の買い入れについては、英国債の保有枠を4350億ポンド(約66兆円)で据え置くことを全員一致で決めた。

 英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めた16年6月以降、外国為替市場では英経済の先行き懸念からポンド安が進んだ。輸入品の値上がりに原油高が重なり、9月の消費者物価指数(CPI)は前年比伸び率が約5年半ぶりに3%台に浮上。政策目標の2%からの上振れが鮮明になった。

 声明文は「インフレ率を目標まで戻すため、緩やかな金融引き締めが適切と判断した」と説明。一方で「全ての政策委員が将来の利上げは緩やかかつ限定的に進められるとの見通しで合意した」とも明記し、利上げを急がない姿勢を示した。

 英中銀は16年8月、EU離脱決定が景気に与える悪影響を和らげるため、政策金利を0.50%から引き下げた。英経済はその後、ポンド安が輸出を支えて一定の底堅さをみせた。17年7~9月期の実質国内総生産(GDP)速報値は、前期比年率1.6%増と緩やかに成長率を高めた。

 記者会見したカーニー総裁は、失業率が42年ぶりの低水準となった点などをあげ「(金融緩和の)アクセルから足を外す時がきた」と説明。労働需給の引き締まりがインフレ機運を高めているとの見方を示した。併せて発表した四半期のインフレ報告では、20年まで2%を上回る物価上昇率が続くとの見通しを掲げた。

 もっとも、景気にブレーキをかける金融引き締めを本格的に進める環境は整っていない。EU離脱後の姿が見通せず、企業の投資や個人消費は縮んで、英経済は減速に向かうとの見方が根強い。経済協力開発機構(OECD)は18年の実質成長率が1.0%(17年は1.6%)と、主要7カ国(G7)で最も低くなると予測している。

 利上げ転換でもくろみ通りに物価高を抑え込めるかも不透明だ。ポンド相場は9月半ばに利上げ観測で上昇した後、EUとの離脱交渉が停滞感を強めるにつれて上値を重くした。英産業界や市場は、離脱後の通商関係をめぐる協議が遅れることに懸念を深めている。交渉の行方次第では通貨安は再燃しかねない。

 カーニー総裁はEU離脱をめぐり「将来の対EU関係の不透明感が解消されれば、英経済への影響は大きく変わる」と指摘。離脱交渉の進み方次第では、金融政策や経済見通しを再検討する可能性もあると述べた。EU離脱の不確実性がもたらす景気リスクと物価高止まりの両にらみで、難しい政策判断を迫られる。

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