2018年7月31日火曜日

焦点:日銀政策修正でも消えぬ副作用、柔軟化は不安定化のリスク

[東京 31日 ロイター] - 日銀は金融緩和政策のファインチューニングを決定したが、副作用は消えそうにない。資産の大量購入や金利操作など政策の枠組みは変わらないため、政策の持続性を高めるための変更は、別の歪みを生み出してしまうためだ。政策の柔軟化は市場も歓迎しているが、相場のコントロールも難しくする。柔軟化は不安定化のリスクでもある。

 7月31日、日銀は金融緩和政策のファインチューニングを決定したが、副作用は消えそうにない。写真は都内で2016年11月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)

<TOPIX型でも別の歪みが発生>

ETF(上場投資信託)の買い入れ配分変更は、市場に別の歪みをもたらすおそれがある。日銀はETFの買い入れを日経平均連動型を減らして、TOPIX連動型を増やすことを決定したが、TOPIX型であれば問題なしとはいかない。

問題は2103というTOPIXの構成銘柄数の多さにある。ナスダックの2611よりは少ないが、ダウの30、日経平均の225、S&Pの500よりはるかに多い。先進国23カ国の大型株と中型株をカバーするMSCIワールド.dMIWO00000PUSでも1643にすぎない。

このためTOPIXには、かなり小さな銘柄も含まれる。時価総額が1000億円以上の企業が4割弱なのに対し、100億円以下は約8%(181社)ある。日経平均はほとんどの企業が1000億円以上で、100億円以下はゼロだ。

日経平均型を減らしたことで、ファーストリテイリング(9983.T)など一部値がさ株の流動性が低下していた問題が、深刻化するスピードは緩和される。しかし、小型株を日銀がETFで買うことが多くなり、需給要因がこれらの株価を動かしてしまう副作用が大きくなる。

市場では「ファンダメンタルズに合わない株価の動きを短期筋は材料視するかもしれないが、長期投資家は敬遠するだろう。日経平均型がもたらす歪みと比べて、まだましであるという程度」(アストマックス投信投資顧問の執行役員・運用部長、山田拓也氏)と冷ややかな声は多い。

<読みにくくなるETF買いに疑心暗鬼>

日銀は今回、年間約6兆円としていたETF購入額を柔軟化。「市場の状況に応じて買い入れ額は、上下に変動しうるもの」と変更した。黒田東彦総裁は31日の会見で、必要に応じて6兆円を上回ったり、下回ったりすることはあり得ると発言している。

これまでも日銀のETF買いが入るか入らないかは市場の大きな関心事だったが、今後は購入の有無に加え、購入額が増えるか減るか、についても気を配らなくてはいけなくなった。

直近の1回あたりの通常ETF買いの規模は705億円。6兆円なら年間約80回の購入が可能であり、そこから買い入れペースを予想する市場関係者も多かったが、これからはそうはいかない。

昼のバスケット取引やクロス取引など日銀のETF買いを推測するトレードの注目度が、一段と高まりそうだ。また、TOPIXの前場下落率など、日銀のETF買いが入る「基準」についても、市場の予想が交錯することになろう。

中央銀行が株(ETF)を買うということに対し、批判ばかりではない。しんきんアセットマネジメント投信の運用部長、藤原直樹氏は「日銀が買って日本株が割高になっているというなら問題だが、いまはむしろ割安。マーケットは誰かが買って誰かが売るもの。特に反対ではない」と話す。

ただ、いまや日銀は日本株の筆頭買い手。巨大投資家の一挙手一投足に、市場が一喜一憂する不安定さも、今回の政策柔軟化によってもたらされることになりそうだ。

<矛盾するYCCと市場活性化>

柔軟化による不安定化リスクは、円債市場でも高まるおそれがある。

日銀は10年物国債金利の誘導目標をゼロ%程度に据え置いたものの、経済・物価の情勢などに応じて、ある程度上下に変動させると柔軟化を決定。黒田日銀総裁は31日の会見で、変動許容幅は、従来の倍に相当する「プラスマイナス0.2%程度」を念頭としていることを明らかにした。

その狙いは、円債市場の機能改善だ。黒田総裁は「非常に狭い範囲で(金利が)動いているために、時々、国債の取引が成立しないなど国債市場の機能がやや低下している」と指摘したうえで、変動許容幅を倍にして市場の取引を活性化させることで、金融緩和の持続性を高めたと説明した。

しかし、イールドカーブ・コントロール(YCC)政策は、本来的に市場機能を低下させる政策だ。大規模に国債購入することで、割高な実勢価格(金利は低下)を作りだし、実需の投資家を事実上排除することで金利をコントロールする。市場機能を回復させようとすれば、YCCを止めるしかなく、金利の動きを自由化させればさせるほど操作は難しくなる。

「変動許容レンジの拡大を通じた10年利回りの上昇容認は、さらなる変動許容レンジの拡大を通じた10年利回りの上昇容認という観測を生み、日銀がその上限利回りの水準を守ることができなくなるリスクが高まった可能性がある」と、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストで元日銀審議委員の木内登英氏は、31日付のリポートで指摘する。

今後の円債市場では、長期金利0.2%を試す動きが出る見通しだ。インフレ期待が低く、企業の資金需要も乏しい中では、長期金利の上昇にも限界があるとみられている。しかし、一度、金利上昇方向に勢いがついた市場だけに、日銀との攻防はこれまでにないほど激しくなるかもしれない。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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