2018年7月31日火曜日

〔焦点〕日銀総裁が緩和限界論を否定、目標実現前の景気失速がリスク

[東京 31日 ロイター] - 日銀は31日の金融政策決定会合で、想定よりも鈍い物価上昇を踏まえ、長期金利誘導目標の柔軟化など金融緩和政策の持続性を高める措置を決定した。会合後の会見で黒田東彦総裁は大規模緩和の限界論を否定したが、物価目標2%がいつ達成できるのか明言を避けた。

また、米国が進める保護主義的な通商政策が世界経済の先行きに暗い影を投げかけており、外需の減退を契機に国内経済が失速するリスクに直面する可能性もある。国内景気に陰りが見えれば、頼みの需給ギャップのプラス維持にも「黄信号」が点滅し物価2%目標の実現がおぼつかなくなるシナリオもありそうだ。

「早期に出口に向かう、金利が引き上げられる、といった観測は完全に否定できると思う」──。

決定会合後の記者会見で黒田東彦日銀総裁は、新たに政策金利に対して導入したフォワードガイダンスを踏まえてこう強調した。

今回の一連の措置は、金融引き締めや金融緩和を縮小する出口戦略の一環ではないとの説明だ。長期金利目標や上場投資信託(ETF)の買い入れ手法の柔軟化によって、現行の大規模緩和の持続性も高まったと胸を張った。

もっとも、本来であれば物価2%目標の実現が遠のけば「できるだけ早期に実現する」とのコミットメントを踏まえ、追加の金融緩和措置によって物価上昇を促すことが基本戦略となる。

決定内容と同時に公表した新たな「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」において、消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比上昇率の見通しを前回4月の同リポートから軒並み下方修正した。

分析期間の最終年度となる20年度でさえ1.6%となり、見通し期間中の2%実現はおぼつかない状況だ。

総裁は追加緩和を選択しなかった理由について、需給ギャップの改善を中心とした物価上昇の「モメンタム」(勢い)が維持されていることや、現行のYCC政策の下ではインフレ期待が高まれば緩和効果が強まることなどを挙げ、金融緩和策の限界との指摘を否定した。

それでも一連の柔軟化措置は、利下げなどの追加措置が金融機関収益をさらに圧迫することや、国債市場の一段の取引減少を招くなど「金融緩和の副作用が無視できない状況にまで強まっていることの証左といえる」(国内銀行)との声が、金融界や市場から出ている。5年以上にわたって続けている大規模な金融緩和策について、その限界を指摘する声はジワリと広がりをみせている。

確かに物価2%の実現を日銀と共有している政府からも、追加緩和を求める声はほとんど聞かれない。菅義偉官房長官は31日午後の記者会見で、今回の日銀の対応について「金融緩和の持続性を強化するものと評価している」とコメントした。金融市場も事前に心配された円高・株安に反応することはなく、日銀の「奇襲策」は現時点で成功したとも言える。

もっとも、先行きの日本経済には不透明感が漂う。展望リポートでは、19、20年度の日本経済について「内需の減速を背景に成長ペースは鈍化するものの、外需にも支えられて、景気の拡大基調が続く」との見通しを示す。

同時にリスク要因について「保護主義的な動きの帰すうとその影響」を新たに明記した。

19年度以降の日本経済のけん引として期待される海外経済には、米国の保護主義的な通商政策によって深刻化する貿易問題が、大きなリスクになりつつあることを日銀も認めざるを得ない状況となってきた。

会合後に公表された声明文には、物価2%目標の実現には時間がかかるとの認識の下で「需給ギャップがプラスの状態をできるだけ長く続けることが適当と判断した」との文言が盛り込まれた。

目標実現の前提として、景気を重視していく姿勢を一段と鮮明にしたかたちだが、先行きは海外発の景気下振れによって需給ギャップが低迷する可能性も否定できない。

長期金利目標やETF買入手法の柔軟化で政策の持続性を確保した日銀だが、金融緩和策の長期化は、目標実現前の景気失速リスクも同時に高めたことになる。 (伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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