2018年7月20日金曜日

日本貨物航空に改善命令 顧客離れは不可避

 国土交通省は20日、日本郵船傘下で貨物専業の日本貨物航空(NCA)に事業改善命令と業務改善命令を出した。事故の報告漏れや整備記録の改ざん、隠蔽を含む不適切な整備作業が発覚したため。第三者を交えた社内調査委員会を立ち上げ原因究明を進めるが業績や運航スケジュールへの影響は避けられない。顧客はほかの航空会社に輸送の代替を進め「NCA離れ」が定着しかねない。

 「最大の使命である安全運航に影響を及ぼしかねない法令違反があったことを深くおわび申し上げる」。都内で記者会見を開いたNCAの大鹿仁史社長は謝罪した。社内調査委員会での調査に加え、全日本空輸にNCAの整備体制の監査を依頼。8月中旬までに国土交通大臣へ再発防止策を報告する。

 航空法に違反する不適切な整備や記録改ざんは2013年から18年まで10件以上あった。鳥との衝突や雷による損傷があったにもかかわらず整備マニュアルに従わなかった、整備記録を改ざんし隠蔽した、など多岐に及ぶ。隠蔽の意図を認めた社員もいるが社長や担当執行役員は認識していなかったという。

 社長は進退について「徹底調査し再発防止策を作ることが最大の責任だ」と述べ続投の意思を示した。経営陣の給与返納は検討するという。

 NCAは16年にも不適切な整備作業に関して国交省から厳重注意を受けた。大鹿社長は「再発防止に努めてきたが、結果として実効性がなかった」と陳謝。不適切な整備作業をした動機は「背景には根深いものがあると思うが、徹底調査の前に推測はしないようにしたい」と明言を避けた。

 国交省は事業改善命令に合わせ、航空機が飛行するために必要な検査を毎年受けずに済む「連続式耐空証明」を取り消した。NCAは整備体制が確保されているとして同証明を取得していたが、毎年の検査が免除される「特権」が奪われる業界初の処分を受ける。

 今後は運航してきた11機すべてが毎年の検査を受ける必要があり、1機あたり年間1週間の運休が必要となる。減便への影響は不可避だ。

 NCAは整備記録に事実と異なる記載をし、6月中旬に全便の運航を停止した。同様の事例を調べ、問題がないと判断した2機以外はまだ再開していない。1機目の調査には2~3週間かかった。全機を終えるには数カ月を要する見通しだ。

 NCAの業績を示す、日本郵船の航空運送事業は直近4期連続で経常黒字だ。19年3月期の同部門の経常利益は17%減の15億円と減益の見通し。大鹿社長は一連の不祥事の業績への影響を「精査中」と述べるにとどめたが、機会損失と顧客離れは不可避だ。

 NCAは国内で同社だけが持つ米ボーイングの大型貨物専用機を使い、旅客便では運べない半導体製造装置や航空機エンジンなどを輸送してきた。NCAの顧客企業は大型貨物専用機を持つ海外の航空会社などを代替で利用し始めた。

 本格的な運航再開が遅れれば他社の利用が常態化し、NCAに戻らない可能性が高まる。世界の航空輸送業界にはアジアの大手も乱立する。大鹿社長は「早期に運航復帰することが信頼を回復し顧客をつなぎとめる唯一の手段だ」と語った。

 顧客の信頼を回復する抜本的な策を示せなければ、上向きかけた業績と存在感が急降下しかねない危機に直面している。

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