関西電力大飯原子力発電所3、4号機(福井県おおい町)の運転差し止めを周辺住民らが求めた訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁金沢支部(内藤正之裁判長)は4日、差し止めを命じた一審・福井地裁判決を取り消した。再稼働の判断となる原子力規制委員会の新規制基準を容認する司法判断を示したといえ、各地の同種訴訟や再稼働を巡る審査にも影響を与えそうだ。
判決は「規制委の新規制基準に違法・不合理な点はなく、大飯原発が同基準に適合するとした判断にも不合理な点はない」と指摘。「原発の危険性は社会通念上無視できる程度にまで管理・統制され、運転差し止めは認められない」と結論づけた。
原発を巡っては、運転差し止めを求める訴訟や仮処分の申し立てが相次いだ。伊方原発3号機(愛媛県)は一時運転を再開したが、広島高裁の仮処分決定で停止に追い込まれている。司法判断が揺れる中、稼働中の原発が停止に至るなど各電力会社の経営戦略にも大きな影響を与えてきた。今回の高裁判決は今年3~5月に再稼働した大飯原発3、4号機の現状を追認しており、関電側にとっても訴訟リスクを避けられたという点では追い風となる。
しかし、原発の再稼働を巡る状況は厳しい。東日本大震災による東京電力福島第1原発事故後、規制委は「世界で最も厳しい水準」とされる新規制基準を策定。同基準に適合する原発の再稼働は認めた。大飯原発3、4号機のほか、高浜原発(福井県)、玄海原発(佐賀県)、川内原発(鹿児島県)など再稼働できた原発は9基にとどまる。全て西日本の原発で「西高東低」の状況が続く。
東日本には福島第1原発と同じ型の原発が多く、規制委による安全審査に時間がかかっていることがある。東電柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)が17年12月に合格したのに続き、4日には日本原子力発電東海第2原発(茨城県)の合格も内定した。だが、いずれの原発も地元や周辺自治体の同意を得るには時間がかかる見通しで、再稼働のメドは立っていない。
3日に閣議決定した新しいエネルギー基本計画では、2030年時点の電源に占める原子力の比率を20~22%とする目標を維持した。達成には30基の原発が必要とされる。大飯原発の運転に司法判断の壁がなくなっただけでは目標に遠く及ばない。
福島事故後、原発への不信感は根強い中、この日の判決は原発を巡る法制度にも言及。「原発の廃止・禁止の当否の判断は司法の役割を超える。国民世論として幅広く議論し、立法府や行政府による政治的な判断に委ねられるべき事柄だ」とも指摘しており、政府や国会に原発のあり方を巡る議論を促す司法からのメッセージともいえそうだ。
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