2018年6月26日火曜日

トヨタ、カローラ・クラウン130万台「つながる車」に

 トヨタ自動車は26日、国内高級セダン「クラウン」と、世界戦略車「カローラ」のハッチバックの新型を発売した。歴史の長い乗用車と、世界で最も売る主力車シリーズあわせて年間130万台をインターネットとつながる「コネクテッドカー」にする。過去30年間でパソコンや携帯電話に起きた急速な変化が車産業にも迫り、データを巡っては米中などのIT(情報技術)大手との競合も激しい。新型車は移動サービスの源泉となるデータを集める基盤づくりの布石で、「サービス創業」「異業種連携」「業務改革」の3つの狙いがある。

新型「クラウン」は「LINE」を活用して目的地や所要時間を調べることができる(11日、東京都江東区)

新型「クラウン」は「LINE」を活用して目的地や所要時間を調べることができる(11日、東京都江東区)

■「動くスマホ」に

 26日夕、トヨタの大型ショールーム「メガウェブ」(東京・江東)には新型車が並んだ。100人を超える招待客向けの「ザ・コネクテッド・デイ」として、新車発表では珍しい豊田章男社長が姿を見せた。トヨタは2020年までに日米で販売するほぼ全ての新車に車載通信機を標準搭載する計画だ。トップ自らが説明するのは先行投資がかさむコネクテッドカーの戦略にかかわるためだ。

 クラウンはトヨタが1955年に発売した最初の乗用車で、今回の新型は15代目になる。カローラは1966年に初代が誕生し、世界の累計販売台数は4600万台を超える。豊田社長は「時代を表す大衆車」といい、セダン、スポーツ車、ステーションワゴンなど複数の形を持つ。17年はカローラ全体で世界150カ国・地域以上で約121万台を販売し、トヨタ車で最も多いモデルだ。今回はハッチバック型の「カローラスポーツ」を発売、他のカローラ2種も更新のタイミングで通信機能をつける。

 新型は低重心のプラットホームで走行性能を高め、歩行者や自転車を検知して避けるなどの最新の安全技術を搭載した。日本や米国、中国では多目的スポーツ車(SUV)の人気が高まり、乗用車は逆風だ。さらにコネクテッドカーは通信機のコスト、4年目以降はサービス利用料が消費者の負担になる。それでも伝統的な2車種を「初代コネクテッドカー」として投入した背景には「車をつくる会社から、世界中の移動にかかわるあらゆるサービスを提供するモビリティ・カンパニーにモデルチェンジする」(豊田社長)という長期戦略がある。クラウン、カローラの伝統的な2車種の刷新に合わせたイベントは、顧客との接点や新サービスを生み出す源泉になるデータにこだわる姿勢を映す。

 車が外のネットワークにつながることで、コネクテッドカーは故障の予知、自動運転、シェアリング、移動中の娯楽などにつながり、「動くスマートフォン(スマホ)」になる。

 新型車は遠隔で車の安全性をリアルタイムで確認でき、スマホでドアやトランクの開閉を操作できる。対話アプリ「LINE」が車載ナビとつながり、目的地の登録や燃料が足りるかどうかの情報を得ることもできる。事故や急病時には自動でオペレーターを通じて消防などに連絡が入り、クラウンでは走行実績で保険が安くなるサービスを提供する。運転手の安心感を高める機能が目立つ。一方で米ゼネラル・モーターズ(GM)が提供する車での決済機能などはなく、スマホで代替できる機能もあり「車両価格が高くなっていて、ユーザーが高い価値を見いだすサービスが課題」(販売店関係者)との声もある。

■異業種との連携をよびかけ

 香港の市場調査会社カウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチによると、世界のコネクテッドカーのシェアはGMが最も大きく、独BMWなどの高級車メーカーが続く。日本メーカーは高機能の純正ナビを中心にコネクテッドサービスを提供するが、グーグルやアップルはスマホを車載システムと連携し、個人の好みのアプリを車内で体験できるサービスに力を入れる。走行データや運転手の行動も把握できるのが自動車メーカーの強みだが、スウェーデンのボルボはグーグルとコネクテッドカー技術の開発で連携する。中国の電子商取引大手アリババ集団も米フォード・モーターと同分野で提携するなど競争は激しい。

 トヨタは現状、提携先の力も合わせて、自前でのデータ取得と管理にこだわる。16年にマイクロソフトと共同で、ビッグデータの管理と活用を担う合弁会社を米国に設立した。グループで年間1000万台の販売規模を武器に自らのデータのプラットホームを構築し、シェアリング、保険、タクシーなど様々な事業者と組み、サービスを開発する戦略だ。個人を特定しない形でビッグデータを異業種に提供し、今回のイベントは「スタートアップを含めた異業種との連携を呼びかける場でもある」(トヨタ役員)という狙いもある。

 17年にコネクテッドカー向けのサービスを共同開発するベンチャーを募る「トヨタネクスト」という取り組みを実施。個人認証システムを開発するカウリス(東京・千代田)、SNS上で贈り物をやりとりするサービスを展開するギフティ(同・品川)など5社と連携する。ソフトバンクグループが投資で先行するシェアリング事業でも、東南アジアの配車アプリ最大手のグラブに約1100億円を出資するなど、本腰を入れ始めた。

■「5G」で市場が拡大

 走行データや故障の情報は新型車などの開発陣や販売店にもフィードバックする。自動運転や電動化の研究、開発期間の短縮、アフターサービスの業務改革にも生かす。コネクテッドカーは次世代高速通信「5G」の整備にあわせて、普及が加速する見込み。米コンサルティング大手PwCストラテジー&によると、コネクテッドカー市場は22年には現在の3倍の約1560億ドル(約17兆円)に拡大する。

 カローラスポーツは欧州で販売する「オーリス」の後継にもなる。欧州では企業に個人情報の利用を制限する「一般データ保護規則(GDPR)」が施行された。自前でのデータ管理はセキュリティーなどのリスクも負い、トヨタは5月に英国にデータ管理の新会社を設立した。IT大手も競争相手にし、先行投資とリスクを抱えてモビリティサービスの創業に賭けるトヨタ。成功するかどうかは消費者に選ばれる付加価値の高いサービスの創造と信頼性にかかり、クラウンとカローラは試金石にもなる。(工藤正晃、押切智義)

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