2018年6月22日金曜日

仮想通貨、健全化遠く 資金洗浄など対策不十分

 金融庁が仮想通貨交換業大手のビットフライヤー(東京・港)など6社に業務改善命令を出した。いずれも登録業者として「お墨付き」を得ていたにもかかわらず、反社会的勢力による取引を許すなどずさんな運営をしていた。各社が顧客獲得を優先して体制整備を怠ったためだが、登録業者への処分は金融庁による監督にも課題を突きつけた。

 金融庁は登録申請中の「みなし業者」と並行して、顧客資産の保護体制などの審査を通過した「登録業者」にも立ち入り検査をしてきた。検査の結果、マネーロンダリング(資金洗浄)などの犯罪対策が不十分で、内部管理体制に重大な問題が相次いで見つかった。

 金融庁によるとビットフライヤーでは、本人確認で登録した所在地が「私書箱」になっていたり、登録審査時に事実と異なる説明をしたりしていたという。反社会的勢力による取引を許していたほか、そもそも反社会的勢力かどうかを確認するリストすら持っていない業者もあった。

 こうした事態の背景にあるのが、仮想通貨取引の急激な広がりだ。日本仮想通貨交換業協会によると、2017年度の仮想通貨取引量は約69兆円と、1年間で20倍に急増。顧客数はのべ360万人に上っている。

 交換業者は業容の拡大に伴い、コールセンターの設置や本人確認による資金洗浄対策の強化が必要だった。しかし、「登録後に十分な内部管理体制を構築できていなかった」(金融庁幹部)。他社との競争で顧客獲得を優先するあまり、従業員の確保やシステム投資が後手に回った。

 金融庁がお墨付きを与えた登録業者ですらルールを守れていないのは深刻な問題だ。大手業者は仮想通貨の健全な取引環境の整備に向けて、業界をけん引する立場にある。仮想通貨の専門技術者は不足しているが、内部管理体制は人員を増やせばある程度、対応できる課題だ。

 仮想通貨は少額決済や国際送金の手段としての発展が期待されている。しかし、現状では仮想通貨を「お金」として決済に使う動きは限られ、自己実現的な値上がり期待ばかり高まっている。業者のずさんな管理体制のもとで犯罪などに悪用されれば「次世代の通貨」の芽を潰しかねない。

 それだけに業者の経営責任は重い。仮想通貨に詳しい麗沢大学の中島真志教授は「顧客から資産を預かっているのに『金融業』としての自覚が足りない」と指摘する。

 急拡大する市場に悩みを抱えるのは金融庁も同じだ。「仮想通貨の環境変化にあわせて、機動的に検査・監督に対応していく必要がある。我々にも改善余地はある」。ある金融庁幹部はこう漏らす。

 1月に多額の不正流出事件が起きたコインチェック(東京・渋谷)を含めたみなし業者はすでに、全15社が行政処分を受けたり、撤退を決めたりした。金融庁は海外の無登録業者には警告を出している。ただ、登録業者まで軒並み行政処分に至った現状は、健全な市場育成に責任を負う金融庁にも課題を残す。

 仮想通貨は今後も成長が期待でき、交換業への新規参入を希望する事業者は多い。今回の行政処分を踏まえると、新規参入の事業者もいったん、登録業者として管理体制を認められても、市場の伸びに合わせて管理体制を充実しなければ、市場からの退出を迫られる。

 仮想通貨を法律で規定した改正資金決済法の施行から1年あまり。伸びる市場の理想と現実のズレは、事業者と金融庁の双方が抱える問題を浮かび上がらせた。

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