2018年6月24日日曜日

「パナマ船籍」なぜ多い 船籍をあえて外国へ 世界をまたにかける外航海運業の戦略とは

日本の会社が運航するにもかかわらず、船体に「PANAMA」と書かれているケースがあります。じつは、日本の外航海運会社が運行する船の約6割がパナマ籍。あえて外国に籍を置いています。

パナマ・リベリア・マーシャル諸島船籍が世界の約4割

 船舶に関する報道で、中米の「パナマ船籍」と聞くことが多い気がします。ただ、乗組員は他国人であっても、船籍はなぜか「パナマ」というケースも。どういうことなのでしょうか。

「当社の船もパナマ籍が多いですね」と話すのは、日本最大手の海運会社である日本郵船の担当者です。日本、そして世界の海運会社が、船籍を自国ではなく、あえてパナマなどに置いているケースがあるといいます。世界的な海運の動きをまとめた日本海事広報協会(東京都千代田区)の年報「SHIPPING NOW 2017-2018」によると、世界の船舶はパナマ籍が最も多く17.7%、日本の外航海運会社が運行する船では、パナマ籍がじつに61.3%を占めます。なぜ、わざわざ他国に船籍を置くのでしょうか。

 このように、ある国の会社が船籍を他国に置くことを「便宜置籍」といいます。海運の業界団体である日本船主協会のウェブサイトではその理由について、「船にも人間と同じように国籍があり、登録した国の法律によって制約と保護を受ける。しかし、その内容は国によってまちまち。そこで、より有利な条件を持つ国に便宜的に船籍を移す動きが、戦後、世界の海運国で活発になった」とし、このような登録ができる「便宜置籍国」のひとつにパナマを挙げます。

 ちなみに、前出の海事広報協会「SHIPPING NOW 2017-2018」によると、世界の船舶はパナマ(17.7%)に次いで西アフリカのリベリア籍が11.1%、3位がオセアニアのマーシャル諸島共和国籍で10.6%となっています。日本の外航海運会社が運行する船では、パナマ籍(61.3%)に次いで日本籍が9.1%、リベリア籍が5.7%だそうです。

「便宜置籍」なぜ行われる?

 日本郵船に、便宜置籍を行う理由について聞きました。

――なぜ便宜置籍を行うのでしょうか?

 まず船舶登録が容易かつ安価に行えます。船主となる会社をその国に設立し、その管理や解散も容易であるほか、外国人船員の配乗も容易です。

――便宜置籍はいつごろから行われているのでしょうか?

 日本においては、本格的に便宜置籍国への登録が増え始めたのは1970年代です。1971(昭和46)年のニクソンショック以降、為替相場が円高に振れたことから、競争力確保のためコストの「ドル化」を進めたのがきっかけです。

※ ※ ※

 前出の日本船主協会ウェブサイトでは、「日本を含め、ほとんどの先進海運国では、自国の船には、原則的に自国人や自国が承認する海技免状等を持った船員の乗船を義務づけている。しかし先進諸国の船員は賃金も高く、より低賃金の発展途上国海運との価格競争では不利。一方、便宜置籍国では、こうした国籍要件等に関する規制が緩やかで、賃金の安い外国人船員を乗せることができる」といった便宜置籍のメリットを挙げています。

 これに加え、日本郵船は「為替リスクの軽減」も挙げます。「決算通貨を選択できるので、コストをドル化するといったことが可能です。政治的な理由などで一国の通貨が変動する事態にも対応できます」と話します。

 一方、便宜置籍には法人税などの節税対策という側面もあるのでしょうか。日本郵船によると、「日本では外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制)があり、租税に関するメリットは特にありません」とのことです。

「日本船籍」復活の動きも

 このように昔から行われてきた便宜置籍ですが、最近は日本籍の船も増えているそうです。日本郵船は次のように話します。

「外航海運は『世界単一市場』で厳しい競争に勝ち抜く必要があり、便宜置籍国への船籍登録は今後も継続していくと考えられます。一方、安定的な海上輸送の確保という観点から、日本の外航船舶運航事業者が国際的な競争力を確保しつつ、日本船舶および日本人船員の計画的な増加を図ることも重要な課題です。外航海運に対する課税の特例である『トン数標準税制』が2008(平成20)年に導入されていることから、日本籍船も今後増加させていく予定です」(日本郵船)

「トン数標準税制」とは、実際の利益に応じてではなく、船舶の大きさを基準として、一定かつ低水準の「みなし益」を設定して課税する制度です。適用を受ける事業者は、日本籍の船や日本人船員を増やす目標を明記した「日本船舶・船員確保計画」を作成し、国土交通大臣の認定を受ける必要があります。1970年代以来減少し続けていた日本の外航海運会社における日本籍船の割合は、この制度が導入された2008(平成20)年から増加に転じ、8年間で3.7%から9.1%まで上昇しています。

 一方で日本郵船によると、便宜置籍国はビジネスとして自国籍船の誘致を行っており、特にパナマ、リベリア、マーシャル諸島が力を入れているとのこと。「コスト面のみならず、サービスの充実に各国ともしのぎを削っているような状況です」と話します。また、便宜置籍はクルーズ船など旅客船でも行われ、特にカリブ海の諸島国であるバハマ籍が多いようだといいます。

【地図】パナマってどこ? おもな「便宜置籍国」

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