金融庁が仮想通貨交換業大手のビットフライヤー(東京・港)など6社に業務改善命令を出した。いずれも登録業者として「お墨付き」を得ていたにもかかわらず、反社会的勢力による取引を許すなどずさんな運営をしていた。各社が顧客獲得を優先して体制整備を怠ったためだが、登録業者への処分は金融庁による監督にも課題を突きつけた。
金融庁は登録申請中の「みなし業者」と並行して、顧客資産の保護体制などの審査を通過した「登録業者」にも立ち入り検査をしてきた。検査の結果、マネーロンダリング(資金洗浄)などの犯罪対策が不十分で、内部管理体制に重大な問題が相次いで見つかった。
金融庁によるとビットフライヤーでは、本人確認で登録した所在地が「私書箱」になっていたり、登録審査時に事実と異なる説明をしたりしていたという。反社会的勢力による取引を許していたほか、そもそも反社会的勢力かどうかを確認するリストすら持っていない業者もあった。
1月に多額の不正流出事件が起きたコインチェック(東京・渋谷)を含めたみなし業者はすでに、全15社が行政処分を受けたり、撤退を決めたりした。金融庁は市場の健全性を保つため、海外の無登録業者に対しては警告を出すなどの対応を実施。正式登録前のみなし業者への処分は、金融庁が水際で業者の選別を進めている裏返しでもあった。
今回の処分が深刻なのは、お墨付きを与えた登録業者ですらルールを守れていない実態が浮き彫りになったためだ。仮想通貨の健全な取引環境の整備にむけて業界をけん引する立場の大手業者も、市場の急拡大を収益に結びつけるために、必要な内部管理を後回しにしていた。
日本仮想通貨交換業協会(会長=奥山泰全マネーパートナーズ社長)によると、2017年度の仮想通貨取引量は約69兆円と、わずか1年間で20倍に急拡大。顧客数はのべ360万人に上っている。
本来なら業容拡大に伴い、コールセンターの設置や本人確認による資金洗浄対策の強化といった対応が一層必要になるが「登録後に十分な内部管理体制を構築できなかった」(金融庁幹部)。他社との競争を優先するあまり、従業員の確保やシステム投資が後手に回った。
仮想通貨技術を支えるブロックチェーンの技術者が世界的に不足しているのは事実。ただし今回、登録業者が指摘された内部管理体制の不備は、いずれも人海戦術で、ある程度対応できる項目だ。
資金洗浄などの犯罪につながりうる取引は海外当局も目を光らせる分野だ。本来、仮想通貨に期待されているのは少額決済や国際送金など決済手段としての発展にある。しかし、現状では仮想通貨を「お金」として決済に使う動きは限られており、自己実現的な値上がり期待ばかり高まっている。
結果、業者のずさんな管理体制のもとで犯罪などに悪用されれば「次代の通貨」の芽を潰しかねない。それだけに業者の経営責任は重い。仮想通貨に詳しい麗沢大学の中島真志教授は「顧客から資産を預かっているのに『金融業』としての自覚が足りない」と指摘する。
急拡大する市場に悩みを抱えるのは金融庁も同じだ。「仮想通貨の環境変化にあわせて、機動的に検査・監督に対応していく必要がある。我々にも改善余地はある」。ある金融庁幹部はこう漏らす。仮想通貨を法律で規定した改正資金決済法の施行から1年あまり。今回の行政処分を踏まえて金融庁は新規の登録審査に厳格に臨む方針だが、そのかじ取りは難しい。
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