2018年7月13日金曜日

泥酔状態の人は印象が悪い?日本とは違うフランスの飲み会文化


フランスには、「Pot(ポ)」と呼ぶオフィスでのちょっとした飲み会がある(写真:ti-ja/iStock)

いよいよ夏本番。日本の職場では「納涼会」と称して飲み会が開かれることが少なくありません。一方、フランスにも「Pot(ポ)」と呼ぶ簡単な飲み会があるとか。ただし、その内容は日本とは大違い。日本人女性でフランスに住むくみと、日本に住んだ経験のあるフランス人男性のエマニュエルが今回は、それぞれの国の「飲み会」について語ります。

エマニュエル : フランスでは社員の結婚や出産のお祝い時に開くパーティや、歓送迎会を「Pot(ポ)」と呼ぶんだけど、くみはこれに参加したことはある?

くみ : ええ、学生時代からよく出ているわ。大学や職場で、ビール、シャンパン、ワインなどのお酒と、ソフトドリンク、それに簡単なサンドウィッチやスナックを用意して、立食で行うのよね。

普段とは別人になる人が続出する日本の飲み会

エマニュエル : そうそう。日本ではこれに当たるのって飲み会になるのかな? 僕が日本で働いていた時に送別会に参加したことがあるんだけど、ずいぶんフランスの送別会と違うんで面白いなぁって思ったんだよね。日本の送別会はいつも就業後に始まって、みんなで居酒屋のテーブルを囲んで座り、いっぱいお酒を飲んで酔っ払って、普段とは別人みたいになっている人が結構いてびっくりしたなぁ。


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くみ : そう! 確かにフランスでは、よほど親しい友人同士とか、学生同士とか特殊なお祝い事でなければ、お酒が入っても大人が酔っ払っている場面は見ないものね。

エマニュエル:フランスの送別会は17時か18時くらいに始まって、たいてい社内のカフェテリアで行われるんだ。そしてみんなでスピーチを静かに聞いて(退屈そうにしている人も割といる)、それが終わるとシャンパンを1杯か2杯ぐらいをおつまみと一緒に飲みながら、就業時間とあまり変わらないテンションでおしゃべりするって感じかな。

くみ : そうなんだ! 職場の違いにもよると思うけど、私のPotの経験とはちょっと違うな。早めの時間に終わるのは同じだけど、すごく饒舌で熱心に話し込む人が多い印象だな。最初の頃は、お酒を飲むとフランス人がますます饒舌になってよくしゃべることと、1時間以上ずっと立ったまましゃべり続けてもその後は「では、このまま食事でも」とならないのが印象的だった。家族のテーマ(日本とフランス、夕食の風景はこんなに違う)のときにも話したけれど、終わったら各自、さっさと自宅でのお夕飯に帰るのよね。

エマニュエル : 日本の飲み会も結構頻繁に行われていると思うんだけど、このPotも何だかんだとしょっちゅう行われるんだよね。社内のサッカーチームが優勝したとか、ボジョレヌーボが解禁されたとか、春が来たとかいうような結構どうでもいいような口実で。

フランスの飲み会では酔っ払うと…

くみ : そうね、どちらも口実は何でもいいのかも。内容というよりは、幹事とか企画する人が熱心かどうかによって頻度は変わってきそう。

エマニュエル:まぁでもPotは飲み会よりも気軽に参加できるかな。いつ来ていつ帰ろうが誰も気にしないし、来て30分ぐらいで帰るのもありだし、長時間残るのももちろんいいし。

くみ : そうかもね。日本からフランスに来る出張者や赴任者が、「フランス人はよくこれだけ長い間、立ったままでしゃべっていられるな」と驚くのもよく目にする。彼らは20分も立ち続けていると疲れてしまって、「どこか座れないかな」といすを探し始めたりすることも多い。

エマニュエル:これは文化の違いだと思うんだけど、日本の飲み会だと泥酔状態の人がいても割と普通だよね。でもフランスだとすごく印象が悪い。だから皆お酒を飲みすぎないように注意しているんだ。実は僕の会社に1人だけ、Potでウイスキーの瓶を半分以上開けて酔っ払っちゃった同僚がいるんだけど、その後は彼の会社での評判はずっと悪かったし、同僚からは「ムッシューウイスキー」って呼ばれてからかわれていたよ。

くみ : お酒が入っているからといって、大声で盛り上がったりふらついたり、というのは周囲に迷惑をかける行為だし、アルコールをコントロールできていない、社会人失格者とさえ思われる節があるよね。これも最初はびっくりしたから、私も結構考えさせられた。

くみ:日本は一般的に、職場ではまじめにしていないといけないから、その反動で、飲み会でアルコールが入ってリラックスしたときに、職場とは別の顔をさらけ出せたり、良くも悪くもお酒を口実に少し態度が変わる、ということが当然のこととして受け止められている気もする。

エマニュエル:Potはいつもスピーチから始まるってさっき言ったけど、まず当事者の上司や同僚のお祝いのスピーチがあって、それに対する返答としての感謝を述べる当事者のスピーチが続くのがお決まりになってるね。

実は、僕は昔このPotのスピーチの例文集を本にして出版しようかなって考えたこともあるんだ。フランス人でも、意外とスピーチが苦手というか、どうやっていいスピーチをしたらいいかわからない人って結構いるんだよね。だから、たいていお祝いされる人と、お祝いのスピーチをした人に「スピーチお疲れさま」の意味を込めて贈り物が贈呈されるのも決まりになってるよ。

Potには休憩や息抜きの意味もある

くみ : 言われてみれば、Potって流れが決まっているね。飲み会も、歓送迎会や誰か特定の人をお祝いする会なら、始めと終わりに簡単なあいさつをすることもあると思うけれど、改まったパーティや会合でなければ、複数の人が長々とスピーチをする、ということはないわね。

エマニュエル:それにPotって就業時間に行うから、休憩や息抜き的な役割もあるんだよね。送別会を仕事の時間にするからといって仕事をさぼっているって感覚がないから。

くみ:確かにそこも日本とは違うわね。業種にもよると思うけど、就業時間中にアルコールが入る集まりを会社でするところはあまりなさそう。日本は管理する側もされる側も、就業時間という概念に忠実かもね。「就業時間中は基本、仕事に集中していないといけない」と思っているイメージかしら。

エマニュエル:もちろんPotを通して社員同士がリラックスした雰囲気で交流することで、職場のコミュニケーションの促進を図ることにもつながるよね。ただ、飲み会はそれをいちばんの目的としているのに対して、Potはあくまでもお祝いをすることが最大の目的だというのが大きな違いかな。以前の会議についての話(日本とフランス、会議の目的は大違いだった)でも言ったように、職場のコミュニケーションは会議だったり、昼食だったり廊下での立ち話なんかの時間などいろいろな時間にできるからね。

くみ : 日本でも、職場の人間関係はすごく重要で、ともすると仕事ができる以上にキャリアを左右する可能性があると思われていると思う。ただ、それも仕事の一部とみなして、人間関係を密にする時間も就業時間の中に含めるのは、フランスの大きな特徴じゃないかしら。

日本ではそれが含まれないからこそ、本来就業時間外は自由なはずなのに、上司から夕食に誘われたらほかにプライベートの予定が入っていても断りづらかったり、頻繁にある職場の飲み会に、たまには顔を出さないといけないような気持ちになったり、と少し複雑な気がする。そういうのがすべて就業時間内に含まれていれば、仕事とプライベートとの兼ね合いで悩むことも少なくなりそう。

フランス企業ではチームビルディングが盛ん

エマニュエル : そう考えると、職場のコミュニケ―ションの強化を目的とする飲み会は、Potよりも「チームビルディング」のほうが近いのかな。これは、違う部署の社員が同じチームになってさまざまなアクティビティを行うもので、アクティビティもサッカーや森での宝探しやサバイバルゲーム、1つの絵画や彫刻を仕上げるなどアート活動、テレビゲーム大会など幅広いんだ。

「アウェイデイ(away day)」という社員のコミュニケーション向上を目的とした日を設け、一日中アクティビティをして、夜はカクテルパーティをするといったことも多くのフランスの企業で行われているよ。これはPotとは違って、全員強制的に参加(カクテルパーティはいつ帰ってもいい)なんだけど、すごくリラックスしてコミュニケーションをとれるいい機会になっているんだ。

くみは飲み会とPotどちらも体験した身としては、どっちのほうが好きなの?

くみ : そうね、メンバーと状況次第かしら(笑)。でも、どちらにしても形式化したり義務化したりすると窮屈になってしまうから、柔軟で、選択肢が多いほうがいいな。参加・不参加の自由も含めてね。

エマニュエル:僕は飲み会にしろPotにしろ、あまりに頻繁にやるのは嫌かな。職場のコミュニケーションは大事だけど、強制されると逆につながりを壊してしまうことになるよ。だって長々とスピーチを立ちながら聞くのも疲れるし、しょっちゅうPotがあると、いいかげん行きたくなくなってしまうからね。

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