[東京 2日 ロイター] - トランプ米大統領が仕掛ける保護主義的な政策を受け、世界の金融・資本市場は「貿易戦争」への警戒感を高めているが、2日に発表された6月日銀短観では、その影響は軽微だった。だが、トランプ大統領が高関税の対象に挙げる自動車に加え、標的とされた中国のIT関連製品は日本製電子部品との関連性が強く、リスクが現実となれば、日本の景気にとっても相当な重しとなるとの指摘が専門家から出ている。
「企業の慎重姿勢がうかがえるが、景況感は引き続き高水準を維持している」──。菅義偉官房長官は2日の会見で短観について、悲観一色ではないとの見解を示した。
ただ、昨年までの高成長の後の景況感の悪化を単なる反動とせず「慎重姿勢」と表現した点に、先行きの不透明感がにじんだともいえる。
政府高官の1人は、現在の景気について「公式には緩やかな景気回復だが、あちこちに不安な動きがある。マインドが心配」(政府高官)と明かしている。
民間機関の多くは、一時的な踊り場を経て4月以降は再び成長拡大路線に戻るとみていた。
だが、その見通しは外れた格好だ。年初来、企業部門は原材料高や人件費上昇が利益水準を圧迫。家計部門は当初、天候不順で消費が振るわず、4月以降も、賃上げが実施されたにもかかわらず一向に回復の動きをみせない。
そこへ企業部門に新たなリスクとして、保護貿易による世界経済の減速懸念が加わった。
今回の短観で日銀は、企業から貿易摩擦の影響を強く訴える声は少ないとの見方を示す。
農中総研・主席研究員の南武志氏も、保護主義などは先行きの懸念材料だが「それ以上に、景気持ち直しが強まる可能性を意識した結果といえるだろう」と、年度後半の景気拡大へ期待が高まっているとみている。
だが、貿易摩擦の影響は、今後大きなリスクになりかねないとの指摘が徐々に増えている。
日本の基幹産業である自動車が、高関税の対象となりかねないためだ。トランプ大統領は6月26日、政府が欧州連合(EU)からの輸入車に対する追加関税に関する調査を完了しつつあると言明し、近く措置を講じると示唆した。
SMBC日興証券・チーフマーケットエコノミストの丸山義正氏は「米国が自動車関税を適用する事態となれば、日本の完成車メーカーは日本国内を含めた生産体制の見直しを迫られる可能性があり、それは部材を納入する鉄鋼や化学、電気機械、さらに資本財を提供するはん用機械や生産用機械、業務用機械などにも波及する」と懸念する。
今回の短観で、自動車産業の景況感は7ポイント悪化。先行きもさらに2ポイントの悪化見通しだ。6月ロイター短観でも、輸送用機器は3月から8ポイント悪化している。 他産業からも「米国、中国を中心とした保護主義的な政策の拡大、南欧の政局不安などを鑑み、顧客の設備投資意欲が高くない」(機械)と懸念する声が出ていた。
貿易摩擦への懸念は、想定為替レートにも表れた。足元の相場は円安方向へ推移しているが、18年度の想定レートは前回の1ドル109円台から今回107円台に修正された。
世界経済へのリスクが高まり市場がリスクオフに傾けば、為替は円高に振れかねない。これを映じて、加工型製造業の利益計画は前回より大きく下方修正されている。
貿易摩擦の影響は、自動車だけではなさそうだ。電子部品など情報関連産業にも、米中摩擦の間接的な影響が及ぶ。短観では電機のDI、前回調査に続き悪化している。
すでに国内の電子部品は、在庫が前年比で3割近く増え大幅な積み上がり状態となっている。
今のところは中国向けにメモリや液晶素子、半導体製造装置などが増加し、中国のIoT(モノのインターネット)投資の恩恵が続いている。
しかし、6月末に、トランプ大統領が中国資本が25%以上の企業に対して「産業上重要な技術」を保有する企業の買収を禁止するルールを策定中と報じられている。
中国のIT関連需要が落ち込めば、日本からの関連部品などの輸出が打撃を受けかねない。
もっとも、大きな影響は避けられるとの指摘もある。慶應義塾大学国際経済学研究センター長の木村福成教授は、米欧や中国が関税引き上げに挙げている品目は、象徴的であっても、実際の貿易量への打撃を試算すれば影響は限定的だと分析している。
ただ、自動車関税だけは、実際に施行されれば日本経済には大きな影響があり、株価・投資行動にも影響しかねない。同教授は「日米ともに落とし所を考えて交渉することが必要」と指摘する。
一方、経済開発協力機構(OECD)は、米・欧・中国全てがあらゆる財の関税を10%引き上げた場合、世界の貿易量が6%減少すると試算しており、報復関税の応酬という事態になれば、想定外の打撃が世界経済に発生するリスクもある。
中川泉 編集:田巻一彦
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