2018年9月1日土曜日

日本人が仮想通貨に抱く「幻想」本物の通貨にはなり得ない理由


2017年末には、世界のビットコインの取引の推定4割が日本の投資家によるものだった(写真:PIXTOKYO/PIXTA)

国際決済銀行(BIS)が正しいとすれば、ビットコインのような仮想通貨に投資する350万人の日本人は、とんだまがいものに手を出していることになる。2017年末には、世界のビットコイン取引の推定4割が日本の投資家によるものだった。多くは30〜40代男性。借金して資金を突っ込んでいる者も多く、日本銀行の調査によれば、その金融知識はお粗末なものだという。

このような投資家は、仮想通貨の価格は上がる一方だと信じている。将来的には既存通貨に代わって広く利用されるようになるから、というのが背後にある理屈だ。日本政府は2017年に仮想通貨を決済手段として合法化し、こうした幻想にお墨付きを与えてしまった。

通貨として機能するための安定性に欠けている

金融とITが融合する「フィンテック」に乗じて、国際金融センターとしての東京の地位向上を狙ったのかもしれない。だとしたら、仮想通貨のような怪しげなブームに乗るべきではなかった。

BISは、仮想通貨は本物の通貨にはなりえないと指摘する。そもそも、通貨が通貨として機能するには価値が安定していなければならない。採寸時と縫製時で寸法が変わる奇妙なメジャーを使っているテーラーにスーツを注文するような人間がいるだろうか。

ビットコインではこのようなことが当たり前だ。たとえば、仮想通貨専門のニュースサイト「CCN」によれば、イタンジという日本の不動産ベンチャーが今年1月、東京の物件を547ビットコインで売りに出した。この日、547ビットコインは日本円で6.7億円だった。しかし、わずか12日後には4.5億円まで目減りした。

仮想通貨は資金洗浄の手段として犯罪組織からも注目されているが、こうした特殊用途を別にすれば、ほぼ完全に投機の対象といっていいだろう。悪名高きオランダのチューリップバブルと同じだ。

2010年に1セントにも満たなかったビットコインは2017年末に約2万ドルの高値へと急騰。その後は急坂を転げ落ち、本稿執筆時点では6000ドル台まで下落している。「ダイ」のように価格変動が小さくなるよう設計された仮想通貨もあるが、ほとんど見向きもされていない。この点が証明するように、仮想通貨市場の本質はカジノだ。

とんでもない量の電力が必要に

一方、仮想通貨を日々の決済に使うと、とんでもない量の電力が必要になる。BISによれば、ビットコインの“採掘”に使われる電力だけで、すでにスイスの年間電力消費量に並ぶ。米モルガン・スタンレーによれば、1ビットコインを作り出すのにかかるコストは8600ドル。つまり、現在の相場では採掘するたびに、約2500ドルも損が出る計算だ。仮想通貨は利用時にも大量の電力を消費するため、深刻な環境問題につながるとBISは警告している。

コンピュータの処理能力もネックだ。仮想通貨はブロックチェーンと呼ばれる技術によって成り立っており、過去に行った全取引を電子的な台帳に記録していかなければならない。現在、ブロックチェーンのデータサイズはビットコインで180ギガバイト。

米国の小売りがすべて仮想通貨で行われるようになったら、あっという間にスーパーコンピュータでなければ処理が追いつかなくなり、急増するデータの重みでインターネットも遠からずパンクする──BISはそう予想する。今のところ仮想通貨による決済は限定的にしか行われていないが、それでも1回の処理に平均で78分もかかる。クレジットカードなら一瞬だ。

つまり仮想通貨は日々の決済手段となることもなければ、素人が手を出せるような安全な投資先ともなりえない。ギャンブルの対象やマフィアが使う闇通貨であることだけは間違いないのだが。

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