経営の厳しいローカル線を廃止して代替バスを運行することは昔からありますが、近年は「BRT」と呼ばれるバスを導入するケースも増えてきました。BRTとはどのようなバスで、どのような利点や課題があるのでしょうか。
線路の敷地にバスを走らせる
近年、利用者の減少などで鉄道の維持が難しくなっているローカル線の代替交通として「バス高速輸送システム」(BRT)が注目されるようになりました。
この場合のBRTとは、廃止や災害で不通になったローカル線の線路敷地にバス専用道を整備し、そこに鉄道の代替バスを走らせるもの。2018年8月には、九州北部豪雨(2017年7月)で不通になったJR九州の日田彦山線・添田~夜明間をBRTに転換する案が検討課題のひとつとして浮上しました。
ローカル線の代替交通としてBRTを導入した場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。ひとことで言えば、鉄道とバスの「いいとこ取り」がBRTのメリットといえます。
おもなメリットのひとつ目はスピード。鉄道の線路と同様、一般車が進入しない専用道を走るため、一般道だけを走る通常のバスより所要時間を短くできます。専用道は渋滞も発生せず、所定のダイヤに近い時刻で運行することも不可能ではありません。
2007(平成19)年に廃止された鹿島鉄道(茨城県)の代替バス「かしてつバス」の場合、石岡駅停留所から常陸小川駅停留所までの区間を25分で結んでいました。2010(平成22)年には鹿島鉄道の跡地を活用した専用道が開通。「かしてつバス」も専用道経由に変更され、石岡駅~常陸小川駅間の所要時間は5~7分短い18~20分になっています。
ふたつ目は運行本数。鉄道に比べ車両の購入費や運行費が安く、利用者があまり多くなくても本数を増やしやすいといえます。2011(平成23)年の東日本大震災で不通になり、2012(平成24)年にBRTが導入されたJR東日本の気仙沼線・柳津~気仙沼間の場合、震災前の運行本数は平日で下り12本、上り10本(うち上下各2本は仙台直通の快速「南三陸」)。これに対して現在のBRTは下り34本、上り31本で、震災前の約3倍になりました。
メリットはスピード! デメリットもスピード?
3点目は柔軟性の高さです。専用道を走るのはバスですから、当然ながら一般道にも直通可能。途中だけ専用道を出て一般道に乗り入れ、専用道から外れた病院などに立ち寄るなどして利便性を高めることもできます。また、一般道が渋滞する区間だけ専用道を整備してバスの遅れを防ぎ、遅延がほとんど発生しない区間は一般道を走るようにすれば、専用道の整備費を抑えつつ鉄道のように定時運行することも不可能ではありません。
しかし、BRTもメリットばかりではありません。というより、BRTのメリットはデメリットにもなるのです。
たとえばスピードですが、通常のバスに比べれば所要時間を短くできるものの、鉄道との比較では必ずしもそうではありません。気仙沼線の柳津~気仙沼間は、震災前の列車が1時間20~30分程度(快速「南三陸」は50分台)だったのに対し、現在のBRTは約2時間と大幅に長くなりました。列車の最高速度は85km/hでしたが、専用道は道路法規の制約もあり、60km/hくらいまでしか出せないのです。しかも一部の区間で一般道を走行するため、所要時間はどうしても長くなります。
また、一般道と専用道を直通すれば、一般道を走る区間で渋滞に巻き込まれる可能性も高くなります。これでは定時運行しやすいというBRTのメリットが生かせません。路線によって周辺の道路事情が異なるため一概にはいえませんが、過疎地であっても慢性的に渋滞する道路は各地にあり、決して無視できない問題です。
さらに、近年はバスの運転手不足が深刻化しています。車両の購入費などが鉄道より安いとはいえ、運転手がいなければ運行本数を増やすことはできません。通常のバスが抱えている問題は、BRTでも問題になる場合があるのです。
これ以外にも、BRTにはメリットとデメリットが多数あります。実際にBRTの導入を検討する場合、メリットを可能な限り生かし、デメリットを極力抑えるための施策もあわせて考える必要があるでしょう。
専用道を使った自動運転の実験も
ちなみに、鉄道の線路敷地をバス専用道に転換した例は古くからあり、1917(大正6)年に廃止された銚子遊覧鉄道(千葉県)の跡地を使った専用道が、日本では第1号とされています。この専用道はのちに線路を敷き直して銚子鉄道(現在の銚子電鉄)として再開業していますが、その後も鉄道の敷地を使ったバス専用道が各地で整備されています。
一方、海外では1970年代以降、都市交通の一種としてBRTが登場。バス専用レーンの整備や連節バスの導入などにより、所要時間短縮や輸送力強化を図る乗りものとして普及しています。しかし、日本では鹿島鉄道跡のバス専用道が計画された2007(平成19)年ごろから、ローカル線の線路敷地をバス専用道に転換するケースもBRTと呼ばれるようになりました。鹿島鉄道や気仙沼線のほか、JR東日本の大船渡線・気仙沼~盛間と日立電鉄(茨城県、2005年廃止)の線路敷地を活用したバス専用道もBRTと呼ばれています。
このようにローカル線の代替交通として徐々に増えてきたBRTですが、ここに来て自動運転の導入というBRTの新たな可能性が見えてきました。
自動車の自動運転技術は運転手不足の解決策として有効ですが、実用化には周囲にある別の自動車や歩行者を回避する技術の向上など、さまざまな課題があります。その点、専用道なら別の自動車や歩行者が入ってくることが少なく、一般道よりは自動運転を導入しやすいといえるでしょう。
実際に専用道での走行実験も計画されています。経済産業省と国土交通省は「ひたちBRT」の専用道で自動運転バスを走らせる実証実験を2018年10月に行う予定。JR東日本も自動運転バスの走行実験を計画しており、12月に大船渡線BRTの専用道を走る予定です。法律の整備など技術以外の課題も多数ありますが、実験の結果次第では比較的早い段階でBRTの自動運転が実現するかもしれません。
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