2018年6月4日月曜日

東芝メモリ、成長戦略見えず ベインが取締役過半で主導

 東芝が1日に売却を完了した東芝メモリは4日、筆頭株主となった米投資ファンドのベインキャピタルが取締役5人のうち3人を出すと発表した。東芝メモリを買収した日米韓連合はファンドなど10社以上が名を連ねる。ベイン主導の企業統治で意思決定を早める狙いだが、新たな成長戦略は示されなかった。韓国サムスン電子の追撃に向け、懸念が残る船出となった。

 「ベイン主導で迅速な意思決定を実現する」。ベインの杉本勇次日本代表は4日に開いた事業戦略説明会でこう強調した。東芝メモリが手掛けるNAND型フラッシュメモリーは大容量化を巡る投資競争が激しく、需要に合わせた機動的な投資判断がカギを握る。東芝メモリの成毛康雄社長は「ベインと二人三脚でタイムリーな判断をしたい」と応じた。

 新生東芝メモリの取締役は5人。日米韓連合に49.9%を出資するベインキャピタルは杉本氏を含め、過半数の3人を確保して主導権を握る。東芝とHOYAの日本勢は議決権の過半を握るが、取締役にはHOYAの鈴木洋最高経営責任者(CEO)が入るにとどまった。

 この日の記者会見の題目は「成長戦略の説明会」。経営体制の枠組みは示されたものの、設備投資額や次世代メモリーの開発方針など肝心の成長戦略については公表済みの内容にとどまり肩すかしとなった。説明会を受けある市場関係者は「東芝メモリがどの分野でオンリーワンになるかがみえてこない」と指摘する。

 売却方針決定からすでに9カ月近く経過している。新味のない説明は今後の経営スピードに不安を残しかねないものとなった。

 日米韓連合への売却決定後、東芝メモリとベインは水面下で将来の投資計画について議論してきた。だが17年末には一部の投資方針で紛糾したとされる。

 東芝メモリではNANDに続く次世代メモリーの技術育成など長期の投資も重視している。一方のベインは東芝メモリの企業価値を引き上げた上で、3年後をめどに東京証券取引所への新規株式公開(IPO)をめざす方針。短期的な利益を出す施策に傾きがちで、東芝関係者から「ベインは半導体のことが分かっていない」との声も漏れる。

 日米韓連合による買収スキームには、ファンドや競合など10社以上が名を連ねる。ベイン主導の方針が示されたとはいえ、船頭が多くなった東芝メモリの企業統治には懸念がぬぐえない。

 ベインがつくる特別目的会社には、メモリー大手の韓国SKハイニックスが3950億円を拠出しており、一部は株式に転換できる。同社はNANDで東芝メモリとライバル関係にある。保有できる議決権は今後10年間は15%以下に制限されるが、一定の影響力を及ぼす可能性は残る。アップルなど米4社や融資する銀行、ベインの買収をめぐり17年に訴訟合戦を繰り広げた協業先の米ウエスタンデジタル(WD)との調整も必要になる。

 官民ファンドの産業革新機構と日本政策投資銀行は将来の資本参加を検討している。だが、両社の出資について杉本氏は「具体的な話はしておらずこれから協議を始める」と述べるにとどめた。

 英調査会社のIHSマークイットによると、NAND市場で東芝メモリのシェアは17年に16.5%と世界2位。38.7%を握る韓国サムスン電子に離されている。利害関係が複雑に絡むなか、明確な戦略を打ち出せるかが課題となりそうだ。(龍元秀明、安原和枝)

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