実は筆者自身も、数年前の台風時、生後まもない子どもを抱えて避難ができず自宅で待機していると、「今すぐ必要だろうから」と、コープが注文していた食品を一部届けてくれて大変助かった経験があります。同時に、なぜこのような状況で配送ができるのかと興味が湧きました。
Eコマースというショッピング形態が拡大するいま、小売企業の展望においては、アマゾンに代表される低価格&即日配送、または実店舗のエンターテイメント化が語られがちですが、人と人が支え合うコミュニティの確立もひとつの方向として注目されつつあります。そしてその流れの中で、日本のコープのあり方は世界的にも高く評価されているのです。
ミッションは「組合員の暮らしを支える」こと
コープとは、英語のCo-operativeの略で、協同組合の意味。その起源は1844年の英国のロッチデールという村。織物工や仕立て屋などの28人の自営業者達が、高い物価や粗悪な商品流通から自分たちの生活を守るためにお金を出し合い、共同で生活必需品を購入する事業を始めたことが始まりだといわれています。
日本では生協ともよばれるこの仕組みは、明治時代から導入がはじまり、急速に拡大。2016年には、全国の世帯の約3分の1が地域生協に加入しているほどに成長しました。また全国の生協組合員数は約2900万人に達し、日用品を中心とした購買事業のほか、共済事業、福祉事業、医療事業などを展開し、総事業高は3兆5000億円に上ります。
日本生活協同組合連合会 本田英一代表理事会長にお話を聞くと、「加入している組合員の暮らしの課題を解決していくのがコープのミッション」とその使命を語ります。そして、そのために、社会環境の変化にあわせて事業内容を変えていく柔軟性を持っていると明らかにしました。
高度経済成長期には、家族のために安心・安全な食材を安価に入手したいという組合員のために、利用者のニーズに沿った商品開発や共同購入事業、実店舗ビジネスを展開。しかし、働く女性が増え共同購入したものを隣近所で分配するケースが少なくなったことなどを受け、個人宅への配送に力を入れるようになりました。
個人配送は店舗と比べて品目数を絞るため、1つの商品に対しての注文数は多くなります。大規模な注文を確実に仕入れられる仕組みが不可欠になり、生産者との調整をはじめ、組合員に届けるための独自の物流網の整備が進んでいきます。
コープは、地域に密着した狭域ネットワークの協同組合が加盟して全国ネットワークを築いており、物流のコアの部分を自分たちで握っています。また、地域それぞれの課題の解決手段を地元のコープが探る一方で、各地域コープが連合して、より大きな物流網などインフラを構築することで効率化も図っています。
こうした流通システムとコントロールできる仕入力により、災害時でも必要な物資を大量に調達し配送することを可能にしているのです。
根底にあるのは、前述したように、あくまでも「組合員の暮らしを支えるのがミッション」という考え方です。だから、ある地域の組合員の暮らしが侵害される災害時も「できることを組合員たちと一緒にやる」のだと本田会長はシンプルに答えてくれました。
その裏側には、”組合員”という個人を何より尊重する姿勢から発し、個別の問題解決のために必要とあらば、事業内容を変更したり、新しい事業を興すこともいとわない発想があります。共済事業や福祉介護サービスはそうして生まれ、ノウハウのほとんどなかった電気小売も、「それが組合員の益になる」という理由で参入しています。
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