2017年9月4日月曜日

インタビュー:YCC、景気変動増幅などリスク=木内前日銀委員

[東京 4日 ロイター] - 7月に任期満了で日銀審議委員を退任した野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは4日、ロイターとのインタビューに応じ、昨年9月に導入した長期金利も操作対象とするイールドカーブ・コントロール(YCC)政策は景気の振幅を大きくするなど多くの問題を抱えているとし、特に経済にマイナスのショックが発生した場合は存続が不可能になると語った。

YCCは廃止が望ましいものの、次善策として操作対象を現行の10年国債利回り(長期金利)から5年や3年などに短期化することで、リスク軽減を図ることが考えられるとした。

YCCの導入によって、日銀はすでに金融政策の正常化に半歩踏み出しているとの認識を示したが、本格的な正常化には現在の2%の物価安定目標の位置づけを見直す必要があると強調。

来年4月に任期を迎える黒田東彦総裁の後任とその政策スタンスが不透明な中で、日銀が黒田氏の任期前に物価目標の柔軟化を検討する可能性に言及した。

詳細は以下の通り。

──長期金利も操作対象にしたYCCの評価と課題について。

「YCCは非常に多くの問題を抱えている制度であり、基本的にはかなり脆弱だ。1年間続いているのは、大きな外的ショックがなかったからだ。まだ、脆弱性は試されていない」

「景気の変動を増幅させる仕組みになっていることが、大きな問題だ。例えばマイナスの経済的なショックが発生し、海外で長期金利が下がるケースでも、日銀は金利が下がらないような操作をするので、それは引き締め策になる」

「結果として海外との金利差が縮小し、円高・株安が進んだ場合、さらに景気を悪化させてしまう。そうした政策が一般に支持されるのか。YCCの矛盾が意識されれば、存続できなくなるだろう」

「また、金利が低下している時に国債の買い入れペースを落としても、日銀の保有残高自体は増えており、下がってくる金利を抑えられるかわからない。金利低下局面で、コントロールできるかどうか怪しい」

──YCCの持続性をどうみるか。

「外的ショックがなければ続けるということだと思うが、その際、大きな制約になるのが国債買い入れの限界だ。金融機関などの国債保有状況をもとに試算したが、現在の保有残高を年間60兆円程度のペースで増加させる買い入れを続ければ、来年半ばには限界がくる」

「日銀の説明では、限界まで国債を買えば、日銀によるコントロールが強まるとのことだが、高い値段でも民間が国債を売れない状況とは、流動性が極限まで下がっている状態だ」

「その場合、流動性リスクの高まりによって金利が上昇し、結果的に変動が大きくなる可能性がある。これは経済にもマイナスであり、財政のリスクも引き寄せる。また、世界的に中央銀行の資産買い入れによって金利が低下している中で、グローバルな危機の引き金になる可能性もある。日銀の責任は重い」

──政策の枠組みをどのように見直すべきか。

「本来はYCCの廃止が望ましいが、そこまで一気にいかないのであれば、金融政策の正常化に向けた次善の策として、現在の誘導対象の年限を10年から5年や3年に短くすれば、リスクをある程度軽減できる。短期化によって、金利の操作性が高まるとともに、それ自体がやや緩和の縮小になり、一種の金融政策の正常化にもなる」

「さらに保有国債の平均残存期間を短くすることで、出口局面での損失の抑制にもつながるなど多くのメリットがあり、可能性は十分にあると思う」

──日銀はどのように金融政策の正常化を進めるべきか。

「昨年9月のYCCの導入で量の正常化は事実上、始まっており、すでに正常化に向けて半歩踏み出している。しかし、本当の正常化には2%の物価目標が制約になっており、政策を総合的に判断できるようにするためにも、そこを変える必要がある」

「具体的には、物価2%達成の時間軸をより明確に柔軟化することが考えられる。これによって長短金利、あるいはリスク資産の買い入れの変更が可能になる」

「物価目標の位置づけを変更するには、来年4月の黒田総裁の任期が関係してくると思う。次の総裁がリーズナブルな政策を行うということであればいいが、人事は直前までわからない。リスクがあると思えば、現総裁の任期中に正常化への道筋をつけることを日銀のスタッフ主導でやることは、あり得るのではないか」

──景気が悪化する場合、日銀に追加策はあるのか。

「効果がある緩和策はもはやない。ただ、それでも追加緩和に追い込まれる可能性はある。日銀はYCC導入時に追加緩和手段として長短金利目標の引き下げとリスク資産買い入れの拡大、マネタリーベース拡大ペースの加速を挙げたが、利下げは不人気であり、金融仲介機能への影響などリスクの大きさを考えれば、相当に大きなショックがなければ不可能。リスク性資産の拡大もインパクトに乏しく、マネタリーベースの拡大に再び戻る可能性は低くない」

「景気が悪化した場合は、政府が財政出動で対応する可能性が大きく、日銀が財政と連携しているとのニュアンスが出せるのが、国債買い入れによるマネタリーベースの拡大だ。それでも緩和効果はないし、国債の買い入れの限界を早めることになり、非常にリスクが大きい」

伊藤純夫 木原麗花 編集:田巻一彦

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