2017年9月22日金曜日

日銀 賃金・物価が誤算 緩和維持決定、経済堅調・雇用は改善

 日銀は21日開いた金融政策決定会合で金融緩和の維持を決めた。米国や欧州が金融政策の正常化を探るなか、日銀だけが出口戦略で出遅れた形。同日の金融市場では円が売られ、株高が進行した。黒田東彦総裁は物価は上昇の兆しがあるとしつつ、「必要があればさらなる緩和も行う」と強調。出口がまだ遠いことを印象づけた。

金融政策決定会合を終え、記者会見する日銀の黒田総裁(21日午後、日銀本店)
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金融政策決定会合を終え、記者会見する日銀の黒田総裁(21日午後、日銀本店)

■なぜ出遅れ?

 日銀は昨年9月、長期金利を0%程度に誘導する「長短金利操作」を導入した。黒田総裁は21日の記者会見で、この一年の誤算は何だったかと問われると「問題は賃金と物価だ」と述べた。経済成長や雇用情勢の改善のわりには賃金も物価も伸び悩む現状が政策の機動性を失わせているとした。

 米欧は危機対応の量的緩和策からの出口戦略をとりつつあるが、日本は出遅れが目立つ。黒田総裁は「外食などで価格の引き上げに向けた動きが出てきている」と述べ、物価には変化の兆しもあるとしたが、「デフレマインドが企業・家計に強く存在する」と強調。鈍い市場の変化にいら立ちをみせた。

 日米欧とも物価上昇率の目標は2%に置いている。だが、日本の消費者物価(除く生鮮食品)上昇率は0.5%。1%台半ばの米欧との差は大きい。このため、政策委員会では出口戦略よりむしろ追加緩和を求める声が浮上。初参加の片岡剛士審議委員が現行の政策について「2%の物価上昇率を達成するには不十分」と反対票を投じた。

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■政府との協調は?

 政府との足並みにも綻びの懸念がある。政府の財政規律の緩みで、日銀の出口戦略をさらに難しくする可能性が出てきたためだ。

 安倍晋三首相は近く、2020年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化目標の達成先送りを表明する。会見ではこの点に質問が集中。黒田総裁も財政健全化の目標設定は政府の仕事としつつ、「財政規律は非常に重要」と苦言を呈した。

 日銀が大量の国債購入をやめる場合、金利上昇(価格の下落)が起きやすくなる。黒田総裁は「国の債務負担を軽くするためにやっているのではない」と話すが、緩和は結果的に財政出動を拡大しやすい環境をつくっている。ただ投資家が規律が緩んだと判断すれば、国債の信認に差し障り、金融政策にも影響が出かねない。

 黒田総裁は労働市場改革や社会保障制度改革などについて「必要な改革が残っている」と述べ、政府に実行を促した。

■取り得る手立ては?

 日本の景気は底堅いが、日銀の取り得る選択肢は何か。ひとつは次の景気後退での追加緩和に備え、物価が上昇する前に資産拡大ペースを緩やかにすることだ。日銀は昨年9月に金融緩和の軸を「量」から「金利」に変え、国債保有の増加ペースは年80兆円程度から60兆円弱に鈍った。事実上の出口戦略といえるが、このペースが続くとは言い切れない。

 もう一つは追加緩和。だが、これまでの大規模緩和でも物価は思うように上がらなかった。市場機能の低下や出口局面での日銀の財務悪化など、懸念される緩和の副作用についても丁寧な説明が求められる。現在日本の緩和マネーが米欧を支えているとまではいえないが、唯一緩和政策を採り続けるうち、一段と出口戦略が難しくなる可能性もある。

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