MVNOの楽天モバイルを運営する楽天は、FREETELを運営するプラスワン・マーケティングから、「FREETEL SIM」の事業を継承することを発表しました。買収額は、5.2億円。合わせて、プラスワン社がMVNO事業で抱える約30億円の負債も楽天が継承します。
楽天モバイルを運営する楽天が、プラスワン・マーケティングのFREETEL SIM事業を買収。写真は楽天の三木谷社長と、プラスワン社の増田社長
買収スキームは次のとおり。プラスワン社はもともと、SIMフリースマホメーカーとして業界に参入したベンチャー企業で、その後、フリモバとしてMVNO事業を開始。MVNO事業の本格化に伴い、ドコモと直接レイヤー2接続を行い、ブランド名もFREETEL SIMに改めました。
ザックリ言うと、プラスワン社には端末事業と回線事業の2つがあり、これに沿って会社を2つに分割。楽天が買収するのは後者のみという形になります。ただし、例外として、MVNEを介していたフリモバについては、プラスワン社が継続します。ただし、フリモバはすでに新規ユーザーの募集を停止しているため、事実上、MVNO事業は収束させる方向にあると見てよさそうです。
2015年にMVNO事業を本格始動させたが、この事業が今回の買収対象
プラスワン社のMVNO事業を引き継いだ楽天側のメリットは明快で、「事業規模を拡大できる」(楽天 広報部)ところにあります。調査会社MM総研が6月に発表した3月末時点の加入は者数は、楽天モバイルが78万回線でMVNOシェア第3位。プラスワン社は43.3万回線で第5位ですが、2社のユーザー数を足すと121.3万契約にのぼり、2位のIIJを抜く計算。1位のNTTコミュニケーションズにも、肉薄できます。
MM総研調べ。楽天モバイルは業界第3位で、FREETELは業界第5位
楽天モバイルは、8月に新料金プランの「スーパーホーダイ」を開始したばかり。スーパーホーダイはワイモバイルを意識した1980円からの料金プランで、データ容量を使い切ったあとも、最大1Mbpsで通信できるのが特徴。
ワイモバイルはMVNOではなく、ソフトバンクのいちブランドのため、上記シェアの集計外にはなっていますが、同じ"格安スマホ"というくくりで見られることが多いブランド。楽天にとっては、目の上のたんこぶのような存在です。
8月にはワイモバイル対抗を強く意識した新料金プランを発表した楽天モバイル
ここにキャッチアップできるという意味では、いわゆる「三木谷割」で端末を配るよりも、効率的なお金の使い方といえるかもしれません。KDDIがビッグローブを買収した結果、MVNOを含むモバイルID数が急増しましたが、それと同様の効果はありそうです。
その上で、FREETEL SIMのユーザーを楽天のサービスと連携させていけば、MVNOを軸に「楽天経済圏」の拡大を目指す同社にとっても、プラスの効果はありそうです。
ただし、現時点では、FREETEL SIMの事業をどう統合していくのかは、まったくの白紙のようです。楽天広報部には、発表直前に、以下のような質問をしています。
・楽天モバイルとFREETEL SIMの回線を1本化するのか
・端末事業を買収しなかったのはなぜか、また、楽天モバイルでFREETELブランドの端末が売られる可能性はあるのか
・ショップ展開もしているが、それを楽天モバイルショップに統合する可能性はあるのか
これに対する回答は、「11月1日にFREETELの事業を継承するが、回線一本化するかどうか、ショップをどうするか、端末をどうするかなど、まだ決まっていることはない。具体的に決まってきたら今回の件をご説明したい」というもの。現時点では、あくまで買収が決まった段階ですが、今後、方針が決定次第、徐々にその方向性が明かされていくようです。
一方で、買収される側のプラスワン社にとっては、負債を楽天に引き受けてもらえる上に、キャッシュが手に入るというメリットはありそうです。楽天側の適時開示を見ると、プラスワン社の財務状況の厳しさが浮かび上がります。2017年3月期の売上高は100億5900万なのに対し、当期純利益は55億3000万の赤字で、赤字額は資本金の47億8200万円を上回っています。
楽天側が継承するMVNO事業に関しては、資産と負債も開示されていましたが、こちらは資産合計が18億7700万円なのに対し、負債合計は30億9000万円と、負債が資産を超えてしまっています。MVNO事業のみの数値なので、プラスワン社の全体を表しているわけではありませんが、この状態は債務超過で危険視号が灯っていたといえるでしょう。実際、MVNO業界では、プラスワン社の動向を危惧する声も聞かれていました。少なくとも楽天の買収によって、財務的に身軽になることはできそうです。
楽天側の適時開示資料を見ると、プラスワン社が大きな赤字を抱えていたことが分かる
ただ、残った当の端末事業がどうなるのかも未知数です。以前は毎月のように発表会を開き、新端末を続々と投入していたプランワン社ですが、2017年は2月1日に発売した「RAIJIN」を最後に、音沙汰がありません。2017年全体で見ても、1月に発売した「Priori 4」とRAIJINを合わせて、2機種のみの展開にとどまっています。
RAIJIN、Priori 4を最後に、新機種が発売されていない
その間、競合であるファーウェイやASUSが続々と新モデルを投入しており、SIMフリースマホ市場での存在感が急速に薄れています。発売を宣言していた「Simple 2」も、「Sample」が披露されただけで、その後のアップデートが何もありません。
「REI」や「KIWAMI」など、SAMURAIシリーズの後継機も、2017年は未発売のまま。海外展開は着々と進めているようですが、ライフサイクルの速いスマホ市場で、フラッグシップモデルが1年以上出せないようでは、正直生き残るのは厳しいと感じます。
中国、台湾のSIMフリースマホメーカーがより強力になる中、プラスワン社にどのような起死回生の一手があるのか、注目しておきたいところです。
女優の佐々木希さんを起用し、テレビCMまで放映したREIも、登場から1年以上経つが後継機が出ていない
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