2018年2月7日水曜日

「詐欺横行」でも、無視できないICOのインパクト

 前回は仮想通貨について論点を整理するとともに、仮想通貨が今後も存在し続ける場合、いくらの価格なら妥当なのか、金融資産総額という観点から考察した。

【その他の画像】

 ビットコインに代表される仮想通貨には、国際的な決済手段や資産保全手段としての利用が想定されているが、このところ、まったく別の用途での期待が高まっている。それはICO(イニシャル・コイン・オファーリング)と呼ばれる仮想通貨を使った資金調達である。

 ICOに対してはさまざまな問題点が指摘されているのだが、仮想通貨経済圏を一気に拡大するポテンシャルも持ち合わせている。今回はこのICOについて論じてみたい。

●“株式の代わり”にトークンを発行

 一般的に企業が株式市場で資金を調達する際には、IPOが行われる。企業が新しく株式を発行し、これを引き受けた投資家が資金を会社に払い込む。その会社が成功して株価が上昇すれば、投資家に利益が転がり込んでくる仕組みだ。

 ICOも基本的にはこれと同じである。プロジェクトを計画している企業やグループが、「トークン」と呼ばれるデジタルの権利証を発行し、これを引き受けた投資家がビットコインなどの仮想通貨を払い込む。トークンにはサービスを利用する権利やプロジェクトで得た収益の一部を受け取る権利などが付与されており、その企業が成功すれば、多くの人がトークンを欲しがるのでトークンは値上がりする。

 さらにメジャーになれば、仮想通貨の取引所で売買されるようになり、投資家はこれを売却して利益を確定できる。

 会社の株式は会社の所有権や議決権を定めたものであり、トークンはサービスを利用する権利などを定めたものなので、法的に両者は異なる存在といえる。だがICOで発行されているトークンは、実質的にベンチャー企業の株式と同じ役割を果たしている。

 ICOと聞くと、通貨が乱発されているようなイメージを持ってしまうかもしれないが、実際にはベンチャー企業の株式に限りなく近い。つまりビットコインという基軸通貨をベースに、無数のベンチャー企業がトークンを発行して資金調達を実施しているとイメージすればよいだろう(筆者の個人的な見解としては、ICOという名称はあまりよくないと思っているのだが、この名称が一般的になっているので、ここではICOの表記で統一する)。

 株式を発行したり取引所に上場するとなると、商法や証券取引法の厳しい規制を受けるため、多くの手間やコストがかかる。トークンにはこうした制約が少ないため、より簡単に資金調達が可能となる。既に世界中で1000種類以上のトークンが発行されている状況だ。

●極めてリスクが高く、詐欺も横行しているが……

 ICOを用いて資金調達に成功しても、予定通りサービスの開発が実施される保証はなく、ICOへの投資は極めてリスクの高いものといえる。また、詐欺目的でトークンを発行する企業や組織も存在しており、こうした企業にだまされてしまう可能性もある。普通に考えて、一般の投資家が投資対象として選択すべきものではないだろう。

 しかしながら、こうしたマイナス面があったとしても、ICOのマーケットはそれなりの規模に拡大すると筆者はみている。その理由は、ベンチャービジネスが直面している質的な変化である。

 スマホ以前の時代であれば、IT系のベンチャー企業であっても、それなりのオフィスを構え、多くの社員を雇って製品やサービスの開発を行ってきた。必要な資金も億単位が標準であり、そうであればこそ、こうしたベンチャー企業に投資する機関投資家(VCなど)が存在していた。

 だがスマホ時代を迎え、ちょっとしたアイデアとプログラミングの技術があれば、バーチャルな空間であっという間に新しいサービスを開発できるようになった。スタートアップに必要な資金は1000万円単位でよく、こうした「プチベンチャー」が世界中で無数に立ち上がっている。

 規模の小さいベンチャービジネスに対して、VCをはじめとする機関投資家が組成した投資ファンドは規模が大きすぎる。ネット上でプロジェクトを宣伝し、賛同した個人投資家から少額の資金を調達するというスキームにICOのプラットフォームはうってつけである。今後も多くのトラブルが発生するだろうが、ICO市場は拡大していく可能性が高い。

●新しい仮想通貨圏が出現する可能性

 もしICOが、ベンチャー企業における資金調達手法の1つとして確立し、その中から、第2のUberやメルカリといったユニコーン(企業価値が極めて大きい有望なベンチャー企業のこと)が生まれてきた場合、どのようなことが起きるだろうか。

 この話はドルをベースにUberという会社が資金調達を行い、同社の株式が10兆円近い評価を受けたことと同じ文脈になる。あるベンチャー企業がビットコインをベースに資金調達を行い、同社が発行したトークンが10兆円の評価を得たと仮定しよう。その企業が持つ価値は、最終的には、資金調達のベースとなったビットコインの価値を押し上げることになる。つまりビットコインを基軸通貨とする、新しい産業をベースにした経済圏が出没する可能性が出てくるのだ。

 筆者は前回のコラムで、仮想通貨の使い道として、国際的な決済と資産保全の2つを想定した。全世界の金融資産の0.1%程度であれば、仮想通貨が存続できる余地があると仮定し、時価総額の推定値を計算した。だが、ICOという形で仮想通貨経済圏に多くの有望なベンチャー企業が集まってくるのであれば話は変わってくる。

 ICOそのものは非常にリスクが高く、詐欺が横行する可能性もあるため、筆者は一般の投資家にICOへの投資を推奨するつもりは全くない。だが同時にこのプラットフォームはベンチャー企業のファイナンス基盤という点で高い潜在力があり、この部分を無視することはできないとも考えている。

 ICOという新しいプラットフォームが本当に離陸するのであれば、仮想通貨の価格の妥当性について再検討が必要となるかもしれない。

(加谷珪一)

新たな資金調達の手法として期待されるICOとは

Let's block ads! (Why?)

Read Again http://news.nicovideo.jp/watch/nw3274510

0 件のコメント:

コメントを投稿