東芝が目指していた半導体メモリー事業の売却交渉の8月決着がずれ込んだ。有力候補の米ウエスタンデジタル(WD)が強気の姿勢を崩さず協議が膠着。米投資ファンドのベインキャピタル率いる日米韓連合が新たな買収案を提示したこともあり、東芝は31日にWDなど3陣営と交渉を続けると発表した。なおWDを売却先の軸に据えつつ、他の提案内容も検討しながら契約締結を急ぐ。
31日午前9時に始まった東芝の取締役会。WDへの売却交渉が停滞しているとの報告が済むと、ある役員が発言した。「それでもWD陣営を優先し協議を続けるべきだ」
一方、東芝の取締役会にはWDの強硬姿勢に批判的なメンバーもおり、「ベインなどの新提案についても議論する必要がある」との意見が出た。結局、もう少し比較検討すべきだとの判断から、売却交渉先をWD陣営に絞り込むことを見送った。
同日午後0時半、東芝は異例のプレスリリースを公表した。「取締役会で売却交渉の状況を検討したが開示すべき決定事項はなかった」。中身のない内容を公表することで落ち着いた。
「リーダーシップを取ってWD陣営で決める」。東芝の綱川智社長は8月中旬以降、主取引銀行や経済産業省にこう説明して回った。24日の経営会議でもWD陣営と優先的に交渉することを確認。28日からはWDのスティーブ・ミリガン最高経営責任者(CEO)とトップ会談を続けてきた。8月31日にも独占交渉権を与え、9月半ばに契約締結する算段だった。
だが、強気のミリガンCEOの姿勢に、綱川社長が顔をしかめる場面が徐々に増えていく。
交渉がいったん停滞した最大の理由は、WDの出資比率の上限や、比率を引き上げる時期などで妥協点を見いだせないことにある。両社は東芝メモリを3年後をメドに株式公開する点で一致する。WDはその際に議決権比率を33.3%まで引き上げることを主張した。第三者による取得を防ぐためだ。対する東芝は、独占禁止法当局の審査を通りやすくするため10年間は15%にとどめるよう求めている。
「口頭での説明内容が契約書に全く反映されていないじゃないか」。東芝の交渉関係者は憤る。対面交渉で納得しても、WD側から送られてきた契約書のドラフトを見るとそれが反映されていないケースがしばしばという。この1週間の交渉を経て東芝側にはWDへの不信感が強まっていった。最終契約書を作成する両社の弁護士同士のコミュニケーション不足も交渉の遅れを招いたもようだ。
土壇場になって東芝とWDの不協和音が強まったことを見透かしたかのように、日米韓連合を主導するベインが29日に新たな買収案を提示。さらに台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業もソフトバンクグループなどと連携し2兆円を上回る買収資金を用意する動きをみせている。
WD陣営と東芝の交渉では、約2兆円の買収総額や東芝メモリの将来の新規株式公開(IPO)、日本勢が議決権の過半数を握ることなど合意に至った部分は多い。
ただ、具体的な条件交渉で両社が自社の利益確保を主張し続けており、東芝側は妥協点を見いだすにはなお時間がかかると判断。他の買い手候補とも並行して協議することを決めた。
ベインから新たな提案が届いたことについて東芝幹部は「ようやく最後のカードを切ってきた」と話す。日米韓連合や鴻海が打ち出した買収提案が対抗案となり、東芝としては強硬姿勢を崩さないWDへの揺さぶりに使えるというわけだ。
ただ主取引銀行は東芝に対して「より好みをしている時間はない」と警告する。9月末には融資枠そのものの更新期限を迎える。それまでに売却先を決められなければ、枠の延長を巡る協議にも響くのは確実だ。
時間を費やす間にも競合する韓国サムスン電子が大型投資を決断し、その差を広げようとしている。先行きが不透明な状況に社内の人材流出も続く。「東芝の劣化」を懸念する声が強まっている。
Read Again https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ31HRN_R30C17A8EA2000/
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