2017年9月21日木曜日

イエレンFRB議長会見要旨 2%下回るインフレ率「不思議だ」

 【ニューヨーク=伴百江、関根沙羅】米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長は20日、米連邦公開市場委員会(FOMC)後に記者会見した。主なやり取りは以下の通り。

 ――コアインフレ率がFRBの目標を上回る兆しがない中で、利上げを続けるのはなぜか。

 「失業率が4.4%に低下したのは好ましい。黒人やヒスパニックの失業率が依然として高いとの指摘があるが、これらの人々は金融危機時に失業率が急激に上昇したが、その後は劇的に低下した。これは非常にポジティブは動きだ」

 「我々の目標はインフレと雇用だ。中期的にインフレ率を2%以上にするという目標を達成しなければならない。インフレ率が2%を何年も下回るのはインフレ期待を下げることにつながる。過去においては労働市場のひずみがあったことで2%を何年も下回ったが、現在は労働市場のひずみがほとんどなくなった。エネルギー価格の下落やドル高で2014年以降の輸入価格が下がったが、今年はそうした要因もない。現在2%を下回っているのは不思議だ」

 「FOMCメンバーは来年にはインフレ率が2%に近づくと予想している。インフレ率の低下は一時的なものだと判断している。我々はインフレ率を2%に上げる責任を果たすと強調したい。フェデラル・ファンド(FF)金利の今後の動向については確固とした計画はない。インフレや雇用情勢次第だ」

 「もしこのインフレ率低下が我々の予想に反して長引くようなら、金融政策もそれに伴い修正する必要がある。ただ、金融政策の効果には時間差があり、労働市場の逼迫も徐々に進み、賃金や価格インフレを起こす傾向がある。景気が過熱するリスクも考慮し、後で利上げを急速にしなければいけない状況を避ける必要がある。急速な利上げは景気後退を招き、労働市場には脅威だからだ」

 ――金融市場の資産価値上昇は金融政策の議論にどう影響したか。

 「金融政策の議論では経済見通しに加え、実際の景況、金融市場、為替レートなど資産価値や長期金利に影響する状況を考慮に入れる。ただ、資産価値をどう読み取るかには明白な方法はない。時には資産価値の上昇は市場参加者の長期的な金利見通しを引き下げたことを反映する場合などがある。FOMCメンバーや市場参加者が、長期的に金利見通しを引き下げるというのは、生産性の低下や人口の高齢化により、世界の需要が低下するとの見解を反映することが多い。ただ、そうした見解が正しいかどうかはわからない」

 ――資産縮小は金融政策の主要なツールではないとどんな状況でも言えるのか。

 「バランスシートと短期金利の変更という2つの金融政策を我々は利用することが可能だが、歴史的にみて、何か景気に衝撃的な状況があった場合にはFF金利で対応するのが普通のやり方だ。それが我々にとっては慣れた金融政策だ」

 「市場参加者も景気に衝撃になる状況に対応してこのツールがどう使われるか理解している。FF金利が主要なツールとして金融政策を執行することを我々は好む。ただ、景気に極めて大きい脅威が起きた場合には、再びゼロ金利政策を強いられる可能性もある」

 「FF金利の政策だけでは十分でないと判断した場合には、資産縮小を停止し、証券の再投資を再開する可能性もある。しかしFF金利がツールとして使えると我々が判断する限り、我々はそれで金融政策を執行する」

 「もし景気見通しで小さな変更があり、金融政策を修正する必要がある場合には、FF金利の誘導水準の見通しを変えるだけで、証券再投資の上限を変えるとか、再投資を数カ月止めてまた再開するというようなことはしない。市場参加者に金融政策がどう執行されるのかを明確に知らせ、混乱を小さくすることが効果的な金融政策だ」

 ――金利は非常に低く、資産は高水準という金融政策に長く固定されてきた。何か異常事態があったときに即座に対応する余裕はあるのか。

 「固定されたというのは間違いだ。景況によってゆっくりと金融政策を変えていけると信じる。ただ、予想以上に景気が拡大したり労働市場が逼迫したりインフレが上昇したりするなどの状況が変われば、金利上昇をゆっくりと実行すると約束することはできない」

 「バランスシートにつての計画を変えるというハードルは高い。何か極めて深刻な状況になった場合には証券への再投資を検討する。ドットチャートに現れた数値は現時点でのメンバーの景況見通しを反映したものだ。これを公に示すのは我々の景況感を知らせるのに役立つが、新しいデータが出てきたら景況感が修正されることもある」

 「2%のインフレ率と失業率を低水準に維持するという議会から課された我々のゴールを達成するということを修正することはない」

 ――今後2~3年で状況の変化に対応する余裕はあるのか。

 「もちろんだ。景気が拡大し、インフレが予想以上のペースで上昇すれば、我々には対応の余裕がある。FF金利を4回引き上げたので、現在でも余裕はある程度ある。今後数年間でFF金利をさらに引き上げる予定なので、一段と余裕ができる。景気回復ペースも強い。資産縮小を決定したのは、景気が堅調で実質的な経済の見通しにも我々が自信があるからだ」

 「もちろん景気に衝撃になる出来事もあるだろう。その場合はFF金利を引き下げるだけでは目標を達成できない可能性があり、証券再投資を再開する準備があると明白に述べたのだ。あるいは金融危機時に利用した金融政策方針(フォワードガイダンス)もツールになるかもしれない」

 ――インフレ低下は一時的と3カ月前よりも確信をもって言えるのか。

 「インフレ率が今年、異常に低いからといって今後も続くとは言えない。1、2月にコアインフレ率が年率1.9%になったときに、我々は2%に近づくとみていた。現在では数カ月のデータを見る限りインフレ率はさらに大きく下がった。これが長引くのか一時的なのかを見極める必要がある。もしこれが一時的なものでないと判断した場合は、金融政策の修正をするのはもちろんだ」

 ――金融市場はFRBの利上げ見通しのペースよりも速いとみて市場に織り込んでいるが。

 「市場参加者が何を考えているかを説明するつもりはない。市場もFOMCメンバーも過去数年間にわたり、完全雇用の景気を維持する中立金利というのが低下傾向にあるという事実を認識するようになっている。市場、FRBの予測、FOMCのメンバーの間で、中立金利の水準は3%から2.75%に下がった」

 「その意味で長期的にも新たなデータをもとに金利見通しを引き下げているということだ。メンバーは今後数年間で2%のインフレ率の下で中立金利が0.75%まで上がると見込んでいる」

 「市場参加者の予想はもっと低い中立金利で、それが長く続くとみているかもしれない。いずれにしても今後の政策見通しについては何も具体的なものはない。先行きは極めて不透明だからだ」

 「FOMCの見通しはこれまでもこれからも修正を繰り返す。FRBの予測と市場の予測を比較するのが難しいのは、FOMCメンバーが金利の見通しについて最も可能性のある水準をはじき出すということ。その際あらゆるリスクなども考慮に入れるため金利は市場参加者の予想値よりも低くなるかもしれない」

 「加えて、多くのエコノミストが指摘するように、市場のFF金利予測とFF金利先物の間の格差に影響するタームプレミアム(保有期間のリスクに応じた金利の上乗せ分)が生じる。そのタームプレミアムがネガティブになった場合、FOMCメンバーの予測と市場参加者の予測の間の違いが小さくなる」

 ――2月にFRB議長の任期が切れるが、トランプ大統領とこれについて話をしたか。

 「FRB議長としての任期を全うすると以前から言っている。それ以上のことはコメントを差し控える。大統領とは以前一度だけ会ったが、それ以降は会っていない」

 ――ジャクソンホールの講演で、金融危機後の一連の規制が信用枠や景気を損なうことなく金融市場の回復に貢献したと発言したが、これについて議会とトランプ大統領はどう解釈すべきか。

 「金融危機後に導入した一連の規制は金融システム強化につながった。個人的にこれらの規制が継続することは重要だと考える。特に資本の増加、質の高い資本、流動性、ストレステストなど銀行監督の改善が金融システムの強化と信用の拡大につながったとみている」

 「同時に、規制当局に対しては、規制による不当な負担を軽減する方法を検討するよう強調してきた。負担が大きい地方銀行に対する負担軽減策は検討を進めている。それぞれの金融機関が抱えるリスクに応じて規制内容を調整する方法も検討している。これについては議会が支援できる点もあると考えている。(金融機関に高リスクの自己勘定取引を禁じた)ボルカー・ルールは非常に複雑だ。規制の意図を損なわない範囲で、施行の簡略化する方法がないか規制当局と検討中だ」

 ――金融緩和策は雇用の改善に貢献したが、株式を持たない人や、住宅価格の上昇が負担となっている人など、一部の人は緩和策の恩恵を受けていない。これらの人に対する金融政策の影響についてどう考えるか。

「大不況により、多くの人々、特に労働市場で不利な状況に置かれている低所得者が仕事を失い、失業率は10%に落ち込んだ。議会によって定められた我々の任務は雇用の最大化と価格の安定化である。失業率は大幅に改善した。これは所得分布の上位ではなく、下部の人々の経済状態の改善に重要なことだ。また、平均所得は所得分布全体で大幅に上昇した」

 ――フィッシャー副議長の退任についてなにか対応策は考えているか。後任候補のクオールズ氏の承認について上院から確約はあったか。

 「理事が3人となることは考えられるが、そうなった場合でも理事会としての責任を全うできると確信している。取り組むべき仕事は多く、人数が多い方が望ましいが、重要なのは、理事会での政策決定において幅広い意見が確保されることだ。クオールズ氏が承認されること、また政府が他の空席についても指名を進めることを期待する」

 ――議会が検討している税改革が、さらに負債を増やす内容となった場合、経済への悪影響があるか。

 「これについては、議会と政府が決めることだ。米国や世界の経済が抱える問題のひとつが、生産性の向上が遅いことであると指摘してきた。生産性の向上を促進する刺激策が含まれる財政策となれば望ましい。また、人口の高齢化に伴う長期的な赤字懸念もある。ただ詳細についてのコメントは控えたい」

 ――7月の議会証言でウェルズ・ファーゴに対して何らかの措置をとる可能性があると発言したが、措置は必要と考えるか。

 「ウェルス・ファーゴの顧客に対する対応は極めてひどく許容できないと考えている。監督責任を真摯に受け止めており、根本的な原因の解明と対応策を検討している。詳細は話せないが、必要とされる範囲で、適切に統制する措置をとるつもりだ」

 ――資産買い入れ策は今後どう評価されると思うか。

 「08年以降に我々がとってきたバランスシート政策や欧州など他国の政策の分析によると、バランスシート政策は金融緩和と速いペースでの経済回復に効果的だったと言える。ただ、深刻な景気停滞に面した際、資産買い入れ策をとることが適切と判断するかは今後の政策立案者次第だ」

 「経済学者が正しければ、生産性の鈍化により、今後米国だけでなく世界中で中立金利が低くなる可能性が高い。そうなった場合、政策立案者は、翌日物金利の引き下げだけで十分な刺激をもたらすことができるか、他に対応策があるか、検討することになるだろう」

 「我々は金融危機の際に長期資産の購入とフォワードガイダンスを採用した。個人的には、これらの政策を選択肢として維持したいと考えている。ただ、優先順位の付け方や、新たな対応策があるかなどの判断は、今後の政策立案者次第だ」

 ――保有資産圧縮の判断を変えるためにはどのような条件が必要か。

 「ガイダンスで示したように、経済見通しに実体的な悪化が見られ、大幅な政策金利の引き下げが必要で、ゼロ金利に近づいて政策金利の調整に制約があると判断した場合は、再投資を開始する可能性がある。FOMCも全会一致でこの見方を支持している。再投資の開始については、ハードルが高く設定されていると言える。小さい経済ショックの場合には、最も重要で信頼性の高い政策は、政策金利だ」

 ――エクイファクス(による情報漏洩事件)を受け、システム上重要な金融機関の指定方法に関する議論は必要だと思うか。

 「エクイファクスは深刻な情報漏洩だった。消費者に対し、信用情報を確認するよう呼びかけている。金融機関に関しては、信用審査の際に漏洩の影響を受けた情報を含んでいる可能性を踏まえ、適切な措置をとるよう働きかけている」

 ――株、国債、不動産価格は上昇を続けているが、経済の過熱化やインフレ率の急上昇などへの懸念はあるか。今回の政策判断を国民にどのように説明するか。

 「バランスシートの縮小を決定したのは、強い経済を背景に、バランスシート政策が不要な刺激策になったと判断したからだ。労働市場は広範囲で継続的な改善が確認されており、米国の景気は堅調だ。国民は、我々の正常化への措置は米国の大幅な景気の回復に基づき正当化されたものであると捉えるべきだ」

 「インフレ率については過去4、5年、目標の2%より低い水準で推移してきた。今年に関してその原因は明確ではないが、2%を達成するために努力を続けている。我々の金融政策と政策金利の見通しは、インフレ率を2%に押し上げ、持続的で強い労働市場を保つために適切な経済環境との判断だ」

 「これら金融政策の判断においてリスク要因を考慮する必要がある。金融の引き締めを早まれば、目標を下回るインフレ率が継続的なものであることが発覚した場合、インフレ率が2%以下で停滞し、インフレ期待の低下によって危険な状況となる可能性がある。そのため、インフレ率が現在のように低い状態において、利上げに慎重になる必要がある」

 「一方で労働市場は強く、失業率も低い。もし緩和的な金融策を維持して労働市場の改善が続けば、経済の過熱とインフレ率の急上昇を招く可能性がある。そうなれば、速いペースでの金融の引き締めが必要となり、不況をもたらす危険性がある。このように(物価の安定と雇用の最大化という)両方の目標はそれぞれのリスクを持っている。これに対し、穏やかな利上げと、新しい情報を注視して見通しや予測を見直していくことが、両方のリスクを管理するのに最善策と考えた」

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