2017年9月21日木曜日

米、金融危機対応を終結 初の量的緩和導入から9年

 【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)が2008年のリーマン・ショック後に踏み切った金融危機対応は、保有資産の縮小決定で完全終結に向かう。米経済は拡大局面が9年目に突入し、失業率も一時16年ぶりの水準に下がるなど底堅い。ただ、成長率そのものは伸び悩み、物価上昇率も鈍いままだ。金融危機の傷痕はなお深く、FRBは険しい政策運営が続く。

 FRBは08年のリーマン・ショック後、市場の崩壊を止めるため、ゼロ金利政策とともに初めての量的緩和に踏み切った。その後も景気不安は収まらず、量的緩和は第2弾(10年11月~11年6月)、第3弾(12年9月~14年10月)と長期化。米国債などの保有資産は危機前の9千億ドルから4.5兆ドルにまで膨らんだ。

 FRBがゼロ金利政策を解除したのは15年12月。政府とFRBのなりふり構わぬ危機対応策で米景気は09年夏以降、回復局面に入った。FRBは16年以降、さらに3回の追加利上げに踏み切ったが、イエレン議長が目指してきたのは、量的緩和で買い入れた資産を減らして平時に戻す「金融政策の正常化」だ。

 量的緩和で主に買い入れたのは、米国債と住宅ローン担保証券(MBS)だ。FRBが利上げを続ければ米国債もMBSも金利が上昇(価格は下落)して、FRBの保有資産に含み損が出かねない。FRBの財務基盤が危うくなれば、基軸通貨であるドルの信認が揺らぎ、世界経済に大きなリスクをもたらす。今回の会合で、利上げを小休止してまで資産縮小の開始を急いだのは、そんな背景がある。

 ただ、金融政策の正常化が進んでも、肝心の経済の正常化が済んだとは言い切れない。党派中立の米議会予算局(CBO)によると、米経済の巡航速度である潜在成長率は90年代の3%台から2017年は1.8%まで低下した。金融危機後、企業が長期に渡って投資を手控え、生産性が低下して経済全体の活力が落ちたためだ。

 そのため米労働市場は完全雇用に近づいたにもかかわらず、賃金上昇率は2.5%程度と危機前の3~4%に届かない。賃上げ圧力が弱いためインフレ率も高まらず、物価は前年同月比1.4%(7月)とFRBが目指す2%に届かないままだ。

 潜在成長率の回復は「金融政策だけでは対処できない」(イエレン議長)のも事実だ。米経済の底上げは、迷走するトランプ政権に重い責務が引き継がれる。

Let's block ads! (Why?)

Read Again https://www.nikkei.com/article/DGXLASGN20H20_Q7A920C1000000/

0 件のコメント:

コメントを投稿