2018年6月5日火曜日

神鋼、改ざん放置の代償重く 悪質性の判断焦点 本社など捜索

 神戸製鋼所による品質検査データの改ざん問題で5日、同社の東京本社(東京都品川区)などに東京地検特捜部と警視庁の家宅捜索が入った。長年改ざんを放置し、対策をとらなかった企業責任を重くとらえたといえる。今後の捜査は、指示系統の解明や悪質性をどう評価するのかが焦点となる。

東京地検などが家宅捜索に入った神戸製鋼所の東京本社(5日午前、東京都品川区)

 関係者によると、捜索は東京本社のほか、神戸本社(神戸市中央区)、3工場の計5カ所。長年不正が続いたアルミ・銅事業部門の複数の製造拠点が対象だ。三菱マテリアル東レの子会社などが相次ぎ不正を公表する中、強制捜査の対象になった理由の一つは、神鋼の過去のデータ改ざんにある。

 製鉄所から出るばい煙データの改ざん(2006年)、神鋼子会社を含む鉄鋼会社の試験データ捏造(ねつぞう)(08年)などが発覚。そのたびにグループ全体で不正が是正されるチャンスはあった。「過去にも問題が発覚したにもかかわらず改まらなかったのは、会社の体質に問題がある」と捜査幹部は指摘する。

 米司法省の動きも意識したようだ。司法省は17年10月、神鋼の米国子会社に「サピーナ」と呼ばれる罰則付き召喚状を送付するなど捜査に着手。提出された関係資料の精査や関係者の聴取なども求めるとみられ、元司法省検事のダニエル・ブラウン米国弁護士は「神鋼の厳しい処分につながる可能性がある」とみる。タカタのエアバッグ問題も司法省が捜査。司法取引で会社側が有罪を認め、高額の賠償金の支払いなどで和解した。日本の捜査当局も品質不正に厳しい姿勢を見せる狙いがあるとみられる。

 日本には品質検査データ改ざん自体を取り締まる法律はない。特捜部などが着目したのは、製品の品質などの虚偽表示を禁じる不正競争防止法だ。公正な競争と「国際約束」の的確な実施の確保が目的で、個人は5年以下の懲役や罰金、法人も3億円以下の罰金という重い罰則規定がある。

 神鋼でデータ改ざんが始まったのは1970年代。本社工場も含めたグループの23拠点を舞台にOBを含め取締役や執行役員が認識し、社員40人以上が関与していた。品質不正のあった製品の納入先のうち、ゼネラル・モーターズ(GM)など海外企業が3分の1を占める。自動車や航空機、新幹線など多岐に使われるアルミのほか、銅や鉄鋼製品にも及んだ。捜査幹部は「組織的に長年続いていたという点で悪質性が高い」とみる。

 一方で、出荷先の99.8%で安全性を確認。データ改ざんによる“被害”が確認されていない点を考慮するとみられる。

 もう一つは刑事責任を問う範囲だ。製造業には、顧客の求める品質に適合しない製品でも、性能などに問題がなければ顧客の了解を得たうえで出荷する「特別採用(トクサイ)」という慣行がある。神鋼グループの一部製造拠点では、了解がないまま出荷することを「トクサイ」と呼んでいた。関与した社員らは安全性に問題がないと判断した場合にトクサイを実行していたとされ、違法行為に当たると考えていなかった可能性がある。

 同種事件としては東洋ゴム工業の免震ゴム性能偽装事件がある。17年に法人としての子会社が起訴・罰金1000万円の有罪となった一方で、同社幹部らは不起訴に。今回も個人責任を追及するハードルは高い。

 神鋼の18年3月期の連結経常損益は711億円の黒字(前の期は191億円の赤字)で2期ぶりに黒字転換。主力の鉄鋼や建設機械事業の回復が業績をけん引したが、品質データ改ざんは業績押し下げ要因だ。

 「現時点で顧客離れはほとんどない」(同社幹部)が、中長期的な会社のブランド低下につながる可能性もある。日本のものづくりの信頼を揺るがした代償は大きそうだ。

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