政府は22日の閣議で、一般会計の総額が過去最大の97兆7128億円となる2018年度予算案を決めた。税収増や低金利に助けられて財政の健全性を示す指標は軒並み改善したが、旧来型の予算は温存され看板政策に名を借りた安易な支出も多く紛れ込んでいる。安倍政権がめざす成長と財政健全化の両立は遠い。
「財政健全化は着実に進んでいる」。6年続けて予算編成を手掛けた麻生太郎財務相は22日、こうアピールした。安倍政権が重視する人づくりや生産性向上のための予算を手厚く配分し、新規国債発行額を減らすなど財政健全化に目配りした。だが、10月の衆院選での与党圧勝と景気回復の高揚感から予算はタガの緩みを隠しようがない。
線路の幅が違う新幹線と在来線を車輪の間隔を変えて走るフリーゲージトレイン(軌間可変電車)。誰も使う見込みがない車両技術についた予算は9億円。約500億円の国費を投じてきたが実用化のメドは立たない。導入を検討していたJR九州は7月に「割高で採算が取れない」と断念。いったん予算がつくとゼロベースで見直すのが難しくなる典型例だ。
来年度予算案は27年ぶりの高水準となる税収を追い風に、新規国債発行額が8年連続で減った。国の政策経費である一般歳出をみると5千億円近く増える社会保障費が突出しているが、バラマキ色の強い項目が目白押しな点も見逃せない。
農地や水路を整備する土地改良予算は328億円増の4348億円。安倍政権になって増えつづけ17年度補正予算案とあわせると5800億円だ。関係者が「感慨深い」と漏らすのは自民党が下野する前の水準に戻ったから。財務官僚は「農林族議員が重んじるのは中身より規模」と語る。
補正予算は歳出抑制のルールに縛られず抜け道に使われがちだ。17年度補正には中小企業の設備投資を支援するものづくり補助金を1千億円計上。対象企業の裾野が広く補正の「定番」だ。16年度補正では800億円を割り込んだものの再び大台を確保したかたちだ。
首相官邸が号令をかける政策は次々と実現する。象徴は生産性革命の目玉と位置づける、財政投融資のしくみを使った高速道路整備だ。
国債を発行して独立行政法人に1兆5千億円貸し付け、環状道路の整備を加速する。独法の金利負担軽減に1兆円の効果があるとはじいており「机上の空論に近い」(市場関係者)。安倍政権はリニア中央新幹線向けにも3兆円融資しており、低金利の活用を名目にしたインフラ整備が広がる。2000年代に「官から民へ」のスローガンの下で改革を進めた財投は打ち出の小づちに逆戻りしたようだ。渋滞解消につながる道路整備はまだしも、「橋梁の耐震強化」が生産性向上に結びつく理屈は分かりにくい。
省庁間の予算の取り合いも目立つ。総務省と経済産業省が競合するサイバー対策予算。ナショナルサイバートレーニングセンターと産業サイバーセキュリティセンターという別々の研修機関を持っているためだ。各省が縦割りで看板政策に群がり、効率化の視点は置き去りになっている。
日ごろ財政危機を訴える財務省の査定も迫力を欠く。そもそも政権から遠く影響力が落ちている上、首相官邸は財政出動に傾きやすく予算削減の発想に乏しい。「日本は政府・与党一体で予算編成するため責任の所在があいまい」。明治大学の田中秀明教授が話すように、安倍1強の中で財政健全化の軸はかすんでいる。
25年には団塊の世代が全員75歳以上になり、医療や介護にかかる費用がさらに膨らむ。75歳以上の医療費の窓口負担引き上げや、無駄づかいが指摘される介護サービスの効率化は積み残しのまま。野村証券の西川昌宏チーフ財政アナリストは「税収増だけで財政再建をめざすのは限界があり、歳出削減に踏み込むべきだ」と指摘する。歳出改革なき財政健全化は危うい。
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