バッテリー劣化による突然のシャットダウンを避けるため、旧型iPhoneの速度を意図的に低下させていたことを認めたアップル。しかしiOSへの操作をこっそり行う以外に、解決策はなかったのだろうか? 同社が採りえた解決策と、消費者の「修理の権利」を考える。
TEXT BY JORDAN MCMAHON
TRANSLATION BY ASUKA KAWANABE
12月20日、アップルは長年多くの消費者たちが疑ってきたある疑惑を認めた。同社は旧型iPhoneのスピードを意図的に遅くしていたのだ。アップルいわく、この施策を始めたのは1年前。その目的は消費者にスマートホンの買い替えを促すことではなく、バッテリーの劣化に対応することだという。
今週の初め、Geekbenchの開発者であるジョン・プールは、iOSのアップデートによって旧型iPhoneのパフォーマンスが低下することを示すブログポストを公開した。
アップルによると、電池残量の低下や低温環境、バッテリーの経年劣化は、すべてデヴァイスのパフォーマンスに影響するという。そしてこういった要因への対策として、同社は旧型iPhoneのパフォーマンスを下げる方針を1年前に採りはじめたことを認めた。
この説明は理に適っているように思える。しかし、アップルには顧客を裏切ることなく同じ目的を達成するいい方法がほかにいくらでもあったはずだ。そういった選択肢をとっていれば、同社は公からの非難も避けられただろう。
『WIRED』US版に送られた声明のなかで、アップルはプールの発見内容を認めた。そしてバッテリーの経年劣化による影響を防ぐために、旧型iPhoneのパフォ-マンスを意図的に低下させていたことを明らかにした。「低温環境下での使用や電池残量の低下、バッテリーの自然劣化などの要因によってリチウムイオンバッテリーのピーク電流の供給能力が低下すると、電子部品を保護するために突然のシャットダウンが起きることがあります」
この意図的なパフォーマンス低下をアップルは何年も行ってきたと多くの人が推測していたが、同社いわくこの方針がとられたのは昨年からで、iPhone 6、iPhone 6 Plus、そしてiPhone SEへの処置だったという。またiOS 11.2によって、今回新たにiPhone 7と7 Plusに対しても同様の処置がとられることになる。アップルは同社の他機種に対しても同様の処置をとる予定だ。
ユーザーへの教育とツールの提供
アップルはiPhoneのパフォーマンスを秘密裏に下げるのではなく、単に顧客にリチウムイオンバッテリーについての知識をもってもらう対応もとれたはずだと、iFixitのCEOであるカイル・ウィーンズは言う。iFixitは、リペアキットの販売や消費者家電の修理マニュアルの公開をしている企業だ。
アップルはiPhoneのユーザーマニュアルのなかで、バッテリーが経年劣化することや交換が必要になることを確かに記している。しかし、「フル充電サイクルを500回繰り返すとバッテリーが本来の容量の80パーセントしか維持できなくなる」ことが書いてあるのは、マニュアルのリンク先を何回か飛んだ先だ。
もうひとつの対策は、消費者向けにバッテリー交換キットを販売し、消費者自ら年を取ったiPhoneに新しいバッテリーを入れられるようにすることだ。計画的な陳腐化の疑惑を生んだソフトウェア操作なんかと比べれば、ずっとわかりやすい解決策である。しかしアップルは、ユーザーが自らデヴァイスを修理できる方法を提供せよという法律に、積極的に抵抗してきた会社なのだ。
『ハフィントンポスト』のレポートによると、ユーザーが自らバッテリーを交換できるようにすると、iPhoneはハッキングされやすくなり、またiPhone内部が覗けるようになることで偽造品がつくりやすくなるとアップルは主張している。
「アップルは消費者にバッテリーを売りません。これに対して、みんなもっと激しい怒りの声を上げるべきなのです」とウィーンズは言う。「バッテリーはiPhoneの維持に欠かせないアイテムであり、誰もが公平に頻繁に交換できてよいはずのものなのです」
アップルの1年間の製品保証には1回のバッテリー交換が含まれているが、適用されるのは「バッテリーに不具合があった場合」のみであり、「不具合」の定義は同社のサイト内では明文化されていない。iPhoneの保証期間が切れていてAppleCare+にも加入していない場合、同社は税別8,800円でバッテリー交換サーヴィスを提供している。
問題は、アップルがこのポリシーを消費者に宣伝していないことにあるとウィーンズは言う。iPhoneユーザーたちは、バッテリーが劣化した場合は高い金を出してiPhoneを買うしかないと考える可能性があるのだ。
ユーザーに選択肢を与える
バッテリー交換は、間違いなく最も合理的な対策だっただろう。しかし(あり得ないが議論の便宜として)百歩譲ってソフトウェアへの操作がアップルにとって唯一の道だったとしても、こっそりとソフトウェアによる解決を図るほかに、もっとやりようがあったはずなのだ。
古いiPhoneのパフォーマンスを低下させるアップデートを無言でユーザーに押し付ける代わりに、アップルはそれをオプトイン形式にするべきだった。バッテリーが一度限界に達するとスマートフォンの動作が遅くなるのは、いまのところ避けられないことだ。ユーザーに選択肢と、判断に必要な知識を与えることによって、アップルは自社の方針に対してたくさんの不満の声が挙がるのを避けられただろう。
オプトイン形式にすると、それを選択しなかった人たちのiPhoneではパフォーマンスに問題が出てくる可能性がある。しかし、ユーザーは状況に応じた選択を行える感覚をもつことができ、新しいスマホを買うよう騙されていると感じることもない。いまのところ、アップルの動きは欺瞞のような印象を与えている。
また、アップルは突然スマホの動きをのろのろと遅くしてユーザーたちを困惑させるのではなく、「設定」アプリにバッテリーの寿命モニターを追加することもできる。そうすれば、iPhoneユーザーたちは問題の原因がバッテリーにあるのか、ほかに原因があるのか判断することもできる。
「修理の権利」法制化が状況を変えるか?
残念ながら、アップルはすでにダメージを被っている。しかしアップルがこの先、違う策をとる可能性も低い。
少なくとも、アップルがギアチェンジして消費者向けのバッテリー交換キットを売り始めることはほぼ間違いなくないだろう。初心者のために説明すると、アップルはiPhoneの外枠に「ペンタローブネジ」という特殊なネジを使っており、これが一般ユーザーが自力でバッテリーを交換するハードルを上げている。
アップルはまた、米国での「修理の権利」法制化に反対するロビー運動も行っている。「修理の権利」が立法されれば、サードパーティーの修理業者や一般消費者が、壊れたスマホをもっと簡単に修理できる。いままで提出されてきたいくつかの修理の権利法案には通常、メーカーに自社商品の修理マニュアルの公開と修理に必要なツールの販売を求めている。
ウィーンズは、「修理の権利」法案が通り、製品保証や入手困難なツールなしに消費者がデヴァイスを自ら修理できることを保証されるようになるのが理想だと話す。
アップルのパフォーマンス抑制策は誤解を生みやすく、問題の最適な解決策からはほど遠い。ただし、リチウムイオンバッテリーはユーザーが知っておくべき問題をたくさんはらんでいるのも事実だ。
アップルがこの問題に対するスタンスを変えることは考えにくいが、もし自分のiPhoneの動きが過去1年間で遅くなったと感じたとしたら、それが幻想でないことはもうわかるだろう。そしてバッテリーの修理が、iPhoneの速度を再び上げてくれることも。
Read Again https://wired.jp/2017/12/25/apple-iphone-battery-slow-down/
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