茨城県内の自動車販売会社が、厚生年金の加入基準を満たす複数の従業員を年金に加入させていなかったとして、日本年金機構水戸北年金事務所から平成29年10月に指導を受けていた。
産経新聞の取材に、「加入基準を満たしていたのは分かっていた」と不正の事実を認めた同社。取材に応じた元社員は「試用中は加入しない」と言われたまま5年半にわたり未加入状態が続いたという。こうした「加入逃れ」は厚生労働省も問題視し、摘発を強化している。(社会部 市岡豊大、天野健作)
「こんな“ブラック企業”だったとは…」
「3カ月間の試用期間中は社会保険に入らないことになっているので」
茨城県ひたちなか市に住む元社員の男性(27)は、24年4月に入社した際、会社側からこう告げられたと明かした。
関係者によると、年金事務所から指導を受けたのはひたちなか市に拠点を置き、県内で5店舗を展開する大手自動車メーカーの正規ディーラー。昭和47年設立で従業員40人(27年12月時点)。うちアルバイトを含む従業員6人について、厚生年金加入が義務付けられているのに手続きを取らなかったとして、10月に指導を受けたという。
男性は月180時間以上は働いていたといい、「正社員とほぼ同じように働いていたのに、試用のままだから保険に入れないのも仕方がないと思っていた」と話す。毎月の給与明細は、通常は控除されるはずの厚生年金と健康保険の欄が空白になっていた。健康保険未加入のため、病院に一度も行っていないという。
平成29年10月に転職してきた同僚から、労働時間が正社員の4分の3以上であれば試用でも厚生年金加入が企業に義務付けられていると聞いた。年金事務所に相談したところ、過去2年分はさかのぼって加入できるが、それ以前の未加入分によって将来の年金が減額される恐れがあるという。
「こんな“ブラック企業”だとは思わなかった。信じていたのに…」と肩を落とした男性は12月20日、会社を退職した。
同社の担当者は「すぐ辞めてしまう人が多いので試用期間中は年金加入の手続きをしないことにしていた」と説明した。その上で男性については「加入基準を満たしているのは分かっていたが、試用期間中の扱いをずるずると引きずり、加入を怠っていた」と釈明。男性側の訴えを受けて、さかのぼって加入手続きを進めていることを明らかにした。
摘発強化で指導後の加入24倍に
厚生年金に入らなければならない従業員がいる会社が制度を避ける「加入逃れ」は、従業員の福利厚生の確保という観点のみならず、厚生労働省が「企業間の公平な競争や、業界の健全な発展を阻害する」として問題視し、指導を強化している。
国に納める厚生年金の保険料は現行で給与の18・3%で、会社と従業員が折半する。この折半分の保険料を会社側が支払うのを渋るのが加入逃れの原因だ。
厚労省が昨年、加入逃れが疑われる約63万の事業所を対象に調査したところ、約6万の事業所が加入手続きをしていなかった。6割が「保険料の負担が困難」を理由に挙げている。
なかには悪質なケースも散見される。29年9月には、東京都内のタクシー会社が、実体のない海外のダミー会社を通じて給与の一部を支払う手口で、厚生年金保険料を低く抑えていたことが発覚した。
こうした加入逃れの摘発に厚労省は近年、力を入れ始めた。3年前までは、雇用保険や法人登記簿を活用して加入逃れの把握をしてきたが、休眠法人などの情報も混在し効果が限定的だった。
ところが、27年度に国税庁から源泉徴収義務者の情報提供を受けられるようになったことから状況は一変した。実際に給与を支払っている事業所の情報と日本年金機構が持っている情報とを突き合わせて、指導を強化。28年度、指導後に年金保険に加入した事業所は11万5105になり、6年前(4808)のおよそ24倍に飛躍した。
建設業や運輸業では国土交通省や都道府県が許可業務を行う際に、社会保険などの加入状況を確認するようになった。必要に応じ、年金機構などへ通報を行う取り組みも実施。29年7月からは飲食業や理容業などへも対象を拡大している。
厚労省の担当者は「指導だけではなく、立ち入り検査なども踏み込んでやる」と強調。文書や電話で会社側に促すだけでなく、実際に会社を訪問するなどして加入を求めているという。
加入しなければ労働者個人の将来的な年金支給額が減ることになる。社会保険労務士の北村庄吾さんは「試用社員などの立場に関わらず、入社時から加入は義務付けられている。給料から天引きしながら未加入という悪質なケースもあるので、会社に任せきりにせず加入状況を自分で確認することも必要」と話した。
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■厚生年金=国民年金に上乗せして給付される年金。厚生年金保険の対象者は会社員が大半で、平成27年に公務員が主に加入していた共済年金が統合された。株式会社などの法人と、従業員が常時5人以上いる事業所は強制加入(飲食店などのサービス業と農林・漁業の一部は対象外)。従業員数が4人以下でも、従業員の2分の1以上が加入に同意する場合は申請することが可能。
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