2017年12月27日水曜日

「第4の携帯」楽天に勝ち目あるのか 意外な援軍は官邸とApple!? (1/5)

産経新聞

 楽天が、自社で回線を保有する携帯電話事業者を目指すと発表し、波紋が広がっている。12月18日には三木谷浩史会長兼社長(52)がツイッター(短文投稿サイト)で「より快適で安価なサービス」を約束。NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの携帯大手3社の料金に不満を持つ利用者から期待が集まりそうだ。しかし、通信業界からは「マラソンで言えば40キロ離されてスタートするようなもの」など、3社でシェア9割を占める中で参入する楽天に厳しい声しか聞こえてこない。一方、楽天には3社の寡占状態による料金高止まりに懸念を示す首相官邸や、世界でも突出してシェアが高い日本でスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の売り上げを伸ばしたい米アップルなど“援軍”の存在も浮上している。楽天の10年に1度の大ばくちに勝算はあるのか−。

photo「楽天モバイル」の店舗。楽天は自前の回線網による携帯電話事業を始める計画を発表した=12月14日午後、東京・銀座

 「携帯事業参入は自然な流れだと思う。もし認められれば、より快適で安価なサービスが提供できるように頑張ります」

 三木谷氏は18日、ツイッターでこう宣言した。参入に否定的な声が業界から聞かれる中で「自然な流れ」と強調した理由について、三木谷氏は、ドコモから回線を借りて格安料金でスマホのサービスを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)としての携帯事業が好調に推移していることを挙げた。また、クレジットカード事業参入時にも「いろいろと言われた」と批判されたことを示唆。しかし、平成16年の参入から13年間で「取扱高、利益水準も業界トップ(クラス)になった」と誇らしげにツイートした。

産経新聞

 しかし、クレカ事業と携帯事業では、参入時のコストが段違いだ。楽天は16年にクレカ事業に参入。国内の信販会社を買収して同事業に本格参入した17年は120億円を投じたが、携帯事業者になるための投資額は1桁違うどころではない。

 楽天は14日、31年の自社回線による携帯電話サービスの提供開始時から37年にかけて、7年間で最大6000億円を投資すると発表した。しかし、携帯3社の近年の設備投資額は、既に基地局などの設備を全国に展開しているにもかかわらず、年間3000億〜6000億円だ。ゼロから基地局をつくる必要がある楽天よりもはるかに巨額。「発表した投資額では、全国隅々まで電波を行き渡らせるのは難しいのでは」(MM総研の横田英明取締役)との指摘も聞かれる。3社に追いつくためには数兆円単位が必要と言ってよさそうだ。

 一方で、投資額を増やせばいいというものでもない。既に3社の基地局は、特に都市部では、他社が設置できる余地がないほど張り巡らされているからだ。「楽天に携帯大手3社並みに設備投資額を増やすだけの企業体力があるのか」(横田氏)との声も聞かれる。

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 さらには、設備投資がかさむだけではない。楽天は来年1月にも新しい電波の割り当てを申請し、年度内には割り当てが決まる見通しで、免許取得は6月ごろになるとみられる。この間、現在の電波利用者の防衛省などに終了促進措置費用として最大2700億円を設備投資とは別に支払わなければならない。

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 ハードルはお金だけではない。サービスや端末といった、3社から乗り換えを促す“武器”を見つけにくいというのも、厳しい意見が関係者から相次ぐ理由だ。

 ソフトバンクが18年に英ボーダフォン日本法人を買収して、携帯事業に参入した際は、アイフォーンの独占という“飛び道具”があった。スマホがまだ一般的でなかった日本の携帯市場で、この武器は非常に有効だった。ソフトバンクは、基地局の整備という正攻法で、「つながりにくい」という悪評も解消。現在は3社ともにアイフォーンを取り扱い、料金は高止まり、電波のつながりやすさも同じ、という横並び状態になっている。

 寡占化した市場で、楽天が先行3社より優位に立てそうなのは、さまざまな自社サービスをポイントで連携させて利用者を囲い込む「経済圏」だ。例えば、EC(電子商取引)サービスの楽天市場で、楽天のクレカを使って買い物すると、ポイントが通常の3倍になるなど、ポイントが優遇される。この仕組みは、楽天が携帯事業者になっても導入されるのは確実で、大幅なポイント優遇が期待される。KDDIもこの経済圏を積極的に導入しているが、楽天にはクレカ事業を始めてから13年という一日の長があり、カード会員が1500万人に達するという顧客基盤は大きな強みだ。

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 楽天の表向きの武器が経済圏ぐらいしかないことの裏返しでもあるが、実は援軍の存在も見え隠れする。

 1つ目は首相官邸だ。官邸は大手携帯3社の本業のもうけを示す営業利益がそれぞれ1兆円近いにもかかわらず、料金値下げは不十分とみている。このため、「実質0円」のスマホ販売を規制し、料金値下げの道筋を引いた。さらに、最近は格安スマホ事業者の成長を後押しすることで、値下げ競争の環境を整備してきた。しかし、格安スマホ市場でも、携帯大手が子会社などを通じてサービス提供する「サブブランド」のシェアが拡大。中小事業者の淘汰(とうた)が進むなど、携帯料金値下げ対策は思うように進んでいない。

 そこで、官邸が期待をかけるのが、第4の携帯事業者を後押しして、競争を活性化させることだ。競争を活性化させるための正攻法といえる手段で、総務省もこれまでも期待を掛けてきたが、イー・モバイルがソフトバンクに吸収されるなど多くの事業者が失敗してきた「いばらの道」でもある。

 今回、楽天の発表した投資額では、全国に基地局を整備するのは困難とみられ、郊外ではドコモとローミング契約して、ドコモの回線に乗り入れる手法が有力視されている。ローミング料金は、大手の裁量で決まるため、通常は、乗り入れ側には大きな負担になるが、「官邸の圧力で、楽天のローミング負担は小さく抑えられるのでは」との声が、業界関係者の間でまことしやかにささやかれている。

産経新聞

 もう一つの援軍となりうるのは、アップルの最新アイフォーンだ。現在、格安スマホ事業者が提供しているアイフォーンは古い機種のみだが、楽天が携帯事業者になった際は、最新のアイフォーンが提供される可能性もある。アップルはこれまで、数千万台の売り上げが見込めない事業者には新型アイフォーンを提供してこなかったが、格安スマホ事業の契約者を順調に伸ばし、携帯事業の新規参入で勢いも期待できる楽天には提供するとみられる。

 三木谷氏は、24年に経済団体「新経済連盟」を発足させ、官邸との関係強化に務めてきた。今後、携帯事業者になった後で、どういったサービスを提供するのかといった表向きの構想の検討とともに、官邸方面への“裏交渉”も重要となる。日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)時代の先輩、山田善久副社長とともに、三木谷氏の交渉力も事業成功のカギとなりそうだ。

(経済本部 大坪玲央)

 楽天 インターネット通信販売大手。日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)出身の三木谷浩史会長兼社長が平成9年に創業し、中小企業などが出店するモール形式でのショッピングサイト「楽天市場」を開設した。プロ野球界に参入し、「東北楽天ゴールデンイーグルス」を発足させたほか、旅行や金融の分野などにも進出。独自のポイントを付与することで顧客を囲い込む戦略で、経営の幅を広げている。

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