2017年12月20日水曜日

LINEも参入 自転車シェアに「総務部」の壁

 自転車のシェアリングサービスが盛り上がりを見せている。LINEは20日、中国大手の摩拝単車(モバイク)と組み、2018年上半期中にサービスを始めると発表。セブン―イレブン・ジャパンはソフトバンクグループと提携し、コンビニを駐輪拠点として事業を本格展開する方針。自治体が手掛けるサービスの利用者も急増しており、市場の成長が期待されるが、課題もある。利用料が通勤手当や交通費として認められるか。盲点は企業の総務部の壁だ。

LINEが提携するモバイクは、既に札幌市でシェアサービスを始めている

LINEが提携するモバイクは、既に札幌市でシェアサービスを始めている

セブン-イレブンも自転車シェア事業に注力する

セブン-イレブンも自転車シェア事業に注力する

■補助金事業からビジネスへ

 自転車シェアは、地方自治体が「レンタル自転車」として長年取り組んできたテーマだ。二酸化炭素(CO2)を排出せず環境に優しい。駅前の放置自転車を減らせる。移動手段の多様化で観光需要を喚起したい。高齢者の雇用を創出できる――。このような理由で、採算性を重視するビジネスというよりも、補助金事業としての色合いが濃かった。

 風向きが変わったのは、NTTドコモが2011年に横浜市で始めた実証実験からだ。携帯電話やスマートフォン(スマホ)を利用するシステムの提供という形で、全国各地の自治体と連携。15年には専業子会社のドコモ・バイクシェア(東京・港)を設立した。東京都内では江東区、千代田区、中央区、港区、渋谷区が相互乗り入れする自転車シェア事業のとりまとめ役となっている。

 ドコモ・バイクシェアの広報担当者によると、11年に4万回だった利用件数は16年には220万回と55倍に増加。利用できる自転車の台数、駐輪場(サイクルポート)が増え、利便性が向上していることが背景にあるという。「ここのところ競合他社の参入が相次ぎ、市場がますます活性化している」

 簡便なシステムが普及し始めたことも見逃せない。サービス各社で細部は異なるが、一般的な部分はほぼ同じ。利用者は事前にスマホなどで会員登録しておく。駐輪場でアプリやブラウザーを立ち上げ、自転車の番号を入力したりQRコードを読み取ったりすると、施錠が外れ利用できるようになる。料金はクレジットカードや電子マネーで自動的に決済される。

 LINEが組むモバイクはシェア自転車が普及している中国の大手で、世界200以上の都市でサービスを展開している。LINEの対話アプリとの相乗効果で、利用者の囲い込みを狙う。セブン-イレブンは全国に張り巡らせたコンビニの店舗網が強みだ。18年度末までに全国都市部の1000店に5000台の自転車を配置する。

■ビジネスパーソンが利用の主役

 消費者への浸透、利便性の向上、参入企業の増加。市場拡大への条件が整いつつある中、今後の課題となりそうなのが「総務部」の壁だ。観光客の利用が多そうに思われるシェア自転車だが、足元のメーンユーザーはビジネスパーソンなのだ。

 ドコモ・バイクシェアの都内広域連携の中核である千代田区では、シェア自転車の16年度の利用回数は約63万9000回で、17年度は11月までに113万6000回と100万の大台を突破した。担当者によると、平日の利用が圧倒的に多く、しかも6時~10時、16時~21時に集中するという。「秋葉原から大手町、有楽町なを結ぶ通勤手段として利用されているようだ」。JRや地下鉄の満員電車に揺られるより、最後の区間は開放的な自転車で、という需要を取り込んでいる構図だ。

 ここで問題となるのが、企業や官公庁がシェア自転車の利用料を通勤・交通費として認めるかという点だ。中小企業では電車の定期券を現物支給するところが多い。大手でも「前例のない自転車の利用料金など総務部が認めてくれない」(エネルギー関連企業の30代社員)との声が上がる。環境負荷軽減の視点からシェア自転車普及を後押しするはずの環境庁の職員は、こう語る。「電車で通勤するといっておきながら、自転車を使えば、通勤手当の不正受給に当たるかもしれない」

 ドコモ・バイクシェアによると、労務担当者が難色を示すケースもあるという。シェア自転車で社員が交通事故に巻き込まれた場合の労災認定について、議論が進んでいないためだ。

 当面はビジネスパーソンの自己負担に頼らざるを得ない自転車シェア。関係者の意識改革と観光需要の掘り起こしが重要になってくる。もっとも、視点を変えれば「身銭を切っても使いたい便利で気持ちいいサービス」(都内の40代会社員)ということ。潜在的な成長余力は大きいといえる。

(石塚史人)

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