[東京 30日 ロイター] - 来年10月に政府が予定している消費税率10%への引き上げに伴う負担軽減策は、家計負担を大幅に圧縮する効果がありそうだ。2%の増税分が5.6兆円になるのに対し、実質的な負担額は1兆円台まで圧縮される可能性があり、政府は「万全」の対策だと強調する。これに対し、財政の専門家らからは「過剰対策」との指摘も出ており、社会保障の持続性や財政再建の行方を危ぶむ声も浮上している。
(日銀試算を基に作成)
<追加策で国民負担は大きく減少>
税率2%の引き上げにより家計の負担は5.6兆円増えるものの、他方で食料品などを対象にした軽減税率や教育無償化を骨子とした恒久的措置、低所得者給付金による所得補填(ほてん)、年金の改訂など、家計負担の緩和策を差し引くと、ネット負担額は2.2兆円に縮小する──。これは日銀が今年4月に公表した試算結果だ。
政府・与党は、さらに家計負担を減少させるため、ポイント還元策やプレミアム商品券、自動車減税、住宅ローン減税拡充などの導入を検討している。
具体的な対策の内容は年末にかけて最終調整されるが、たとえば中小小売店での購入を対象にしたキャッシュレス払いのポイント還元が実現した場合、最大で約7400億円の負担軽減になるとの試算もある。
第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、1世帯当たりのポイント対象消費支出について、対象となる中小企業割合を57.1%、キャッシュレス比率を26.3%などと仮定し、年間43.9万円と試算。全体では家計最終消費支出の245.2兆円に対し、約7400億円になると弾き出した。
プレミアム商品券については、2014年増税時の対策の際に1516億円がプレミアム分として使用された(政府調査)。
自動車減税は、自動車業界からの要望が強く、与党内では恒久的な減税として議論されている。約1000億円の税収規模である取得税が廃止される可能性があり、保有にかかる自動車税も最大4000億円程度が廃止されるケースもありそうだ。
子育て世帯から年金世帯まで様々な軽減策が並んだ結果、実現すれば増税負担は、何も対策を打たない場合の増税負担5.6兆円に比べて「1兆円台程度まで縮小してもおかしくない」(熊野氏)とみられている。
消費増税の対策メニュー 負担軽減効果の試算 出所
軽減税率 1兆円 日銀試算
幼児教育無償化 1.4兆円 日銀試算
ポイント還元 6300億円程度 第一生命熊野氏試算
プレミアム商品券 1516億円 14年実績
自動車減税(取得税) 1000億円程度 税収実績
自動車減税(自動車税) 不明
住宅ローン減税 不明
<政府は増税実施最優先、財政配慮は二の次>
これを過去の増税時と比較すると、家計の負担額は格段に小くなる。1997年の5%への引き上げ時には増税分のほかに所得減税の打ち切りなどの負担増も重なり、ネットで8.5兆円の家計負担が生じた。14年の8%増税時には、年金額のマイナス改定が重なって負担増は8兆円だった。
経済官庁のある幹部は「14年の増税時は、その後の消費回復に時間がかかった。政治サイドからは、対策規模が足りなかったからではないかとの声が多い」と話す。
政府内では前回の苦い記憶から、今回は増税規模を十分補える厚めの対策が必要との声が、当初から強まっていた。
特に2019年は、貿易摩擦の影響や東京五輪需要の剥落など、景気へのマイナス要因が予め予想される。先の経済官庁幹部は「増税前後の消費平準化にとどまらず、実質的な所得目減り分を補完するため、万全な対策を打つことが必要」との認識を示す。
また、別の幹部は「消費税が無事に上がるかどうかが問題。対策は一時的なものであり、増税とはタイムスパンが違う」と指摘。負担軽減策が膨らんでも、恒久的な増税を実施できるなら、その増収効果は長期的に財政をサポートする効果を持つとの見解を示している。
安倍晋三首相が出席した10月5日の経済財政諮問会議では、万全な増税対策を活用して、デフレ脱却につなげたいと期待する声が強まった。
民間議員からは「機動的な経済運営が非常に重要」「総合パッケージとして推進していくことが必要だ」 「強力な需要喚起策をパッケージとして展開すべき」といった発言が相次いだ。
<過剰対策との見方も>
しかし、こうした対策の大規模化に疑問の声も上がっている。
第一生命の熊野氏は、今回の増税対策の結果、2.2兆円と過去の4分の1程度の負担に抑制でき、ポイント還元策などの追加対策が盛り込まれなくても「景気は腰折れしない」と分析。大規模に膨らむ対策メニューは「過剰対策になりかねない」とみている。
BNPパリバ証券・チーフエコノミストの河野龍太郎氏も「財源がないまま膨らんだ社会保障費の財源をねん出するため消費増税を行うのであり、ある程度の消費の落ち込みはやむを得ないはず」と指摘する。
そのうえで「あまり大きな対策を行うと、景気対策が止められなくなり、歳出が膨らんで、何のための増税だったか分からなくなる」と述べている。
増税に伴う負担軽減策によって、景気腰折れの回避を優先課題に掲げる政府・与党。他方で過大な負担軽減策を打ち出せば財政や社会保障制度の持続性に疑問符がつきかねないと、複数のエコノミストが指摘する。
将来不安が払拭されなければ、個人消費への「抑制効果」が働き続け、それが消費刺激策をさらに誘発するという悪循環に陥りかねないとみているためだ。
世論がどちらの見解に軍配を上げるのか、その動向によっては、今後の消費税対策検討の行方にも大きな影響を与えそうだ。
中川泉 編集:田巻一彦
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