インターネット上の仮想通貨「ビットコイン(BTC)」が8月1日に分裂した。利用者離れが懸念されたが、ふたを開けてみれば価格はうなぎ上りで、すぐに最高値を記録。分裂で誕生した「ビットコインキャッシュ(BCC)」の価格も上がりつつある。騒動で逆に名前が知れ渡り、買いが集まった格好だ。特にビットコインは、緊迫化する北朝鮮情勢を受けリスク回避から資金が流入して高騰しているもようで、今後も「地位」が向上して価格は上昇しそうだ。しかし、分裂騒動が再燃する可能性もくすぶり、急落のリスクを指摘する声もある。
最高値更新、年初の5倍
取引所大手のビットフライヤーによると、BTCの価格は15日に1BTCあたり49万8200円を付け、最高値を更新した。現在は46万円前後で推移している。今年初めには10万円前後で取引されており、約5倍にも跳ね上がったことになる。
一方のBCCは、分裂に伴ってBTCの保有者に同数が付与された。誕生時は1BCC当たり4万円程度だったが、現在は8万円前後となっている。
BTCをめぐっては、当初は分裂に伴って利用者が離れる懸念があった。だが、実際には人気が集まり、価格が高騰している。
ここまで買いが集中しているのは、分裂騒動が連日、大きく報じられて知名度が高まったことが大きい。結果として大きなトラブルが起きなかったことで安心感も広がり、「新規の仮想通貨投資家が増えた」(取引所運営のビットポイントジャパンの小田玄紀社長)という。
大もめの分裂劇
分裂劇はもめにもめた。それだけに、注目も大きく集めた。
BTCは取引の急増でシステムが限界に近づき、開発者は扱うデータを圧縮することで処理能力を改善する案を提示。しかし中国の大手事業者が報酬が減るとして反発し、みずからの利益につながるよう、システムの容量自体を拡大する案を示して対立した。
分裂すれば、これまでの取引データが消えたり、混乱に乗じてコインが盗まれたりする恐れがあったことから、7月に両者の折衷案が採用され、BTCの規格が変更された。
しかし、中国勢は納得せず、容量を大きく拡大できるBCCの立ち上げを8月初めに強行した。
BTCは法定通貨のような管理者がおらず、システム参加者の合意で民主的に意思決定されるのが特徴。しかし今回はそれが裏目に出て、中国勢の“暴走”を許す形となった。
^対応に大わらわ
日本では投資家が増えているだけでなく、飲食店や家電量販店など利用シーンも広がっており、対応に大わらわとなった。取引所はBTCの入出金など一部サービスの一時停止に踏み切り、利用者は騒動の行方を固唾をのんで見守った。
だが結局、分裂で大きな混乱は起きなかった。国内取引所はすぐさまサービスを再開し、BCCの取引も開始した。
「北リスク」も買いを後押し
危機を乗り越えたBTCにとって追い風となっているのが北朝鮮情勢の緊迫化だ。「投資回避先の一つとしてBTCが選ばれた」(国内取引所幹部)とみられ、さらに買いが集まって価格を押し上げている。
そもそも2009年に運用が始まったBTCが注目を集めたのは、13年のキプロス危機だ。政府が預金封鎖に踏み切ったことで、特定の国で発行される法定通貨と違い国境のないBTCに資金が流入し、価格が高騰した。
従来、政治や経済などの危機的状況が起きた際は、安全資産である金に買いが集中し、「有事の金買い」と言われてきた。だが最近は、有事の際にBTCが存在感を増している。
日本では4月に仮想通貨を決済手段と位置づける改正法が施行されたことなどから、BTCは今後も市場に浸透していきそうだ。ビットポイントジャパンの小田社長は、「1BTCが70万円近くなる可能性がある」とみる。
ただ不安もある。BTCは7月の規格変更に伴い、11月にシステムの容量を拡大することになっている。これには慎重な意見も根強く、再び分裂騒動が起きる可能性もある。今回の騒動は乗り切った形だが、BTCの信頼が揺らぎ価格が急落する懸念は否定できず、しばらく目の離せない状況が続きそうだ。(経済本部 中村智隆)
ビットコイン インターネット上で流通する仮想通貨。政府や中央銀行による裏付けはなく特定の管理者はいないが、ネット上の取引所でドルや円と交換できる。一部の商品やサービスの代金決済にも利用可能。安い手数料で海外へ送金できる一方、匿名性が高いことからマネーロンダリング(資金洗浄)などへの悪用が懸念されている。利用者保護を目的に今年4月、仮想通貨と現金を交換する取引所の登録制導入を盛り込んだ改正資金決済法が施行された。
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