2017年8月29日火曜日

〔クロスマーケット〕北朝鮮リスク高まり円高・株安、警戒される「泥沼シナリオ」

[東京 29日 ロイター] - 北朝鮮が事前通告なしに日本上空を通過するミサイルを発射し、金融市場にはリスクオフムードが広がった。円高が進み日本株は下落。米国や北朝鮮がすぐに直接的な軍事行動に出るとはみられていないものの、対話路線が遠のくなかで、国際社会が経済制裁を強化する一方、北朝鮮はミサイル発射を止めない「泥沼シナリオ」が警戒されている。

<緊張が走った金融市場>

「ミサイルが日本に落ちるかもしれない」──。日本政府の全国瞬時警報システム「Jアラート」が発令され、テレビに「国民保護に関する情報」が大写しされるなか、29日早朝の金融市場に緊張が走った。

109円台前半だったドル/円JPY=は108.33円まで急落。1万9400円台だったシカゴ日経平均先物9月限NIYU7も、一時1万9045円まで下落した。外為市場では、米系ヘッジファンドやアルゴリズムトレードがドル売り/円買いの主体との見方が多い。

北朝鮮のミサイルが、日本本土の上空を通過したのは2009年以来。事前通告なしに通過させたのは初めてだ。安倍晋三首相は記者団に「わが国を飛び越えるミサイル発射という暴挙は、これまでにない深刻かつ重大な脅威」と述べたうえで、国連安全保障理事会の緊急招集を要請した。

ミサイルは日本上空を飛び越え、3つに分離して北海道襟裳岬の東方約1180キロに落下したが、29日のアジア株式市場は、中国を除いて小幅ながらほぼ全面安と警戒感は解かれていない。さらに米株先物EPU7が下落しているほか、10年米長期金利US10YT=RRも低下するなど、今夜の米市場でもリスクオフが広がる見通しだ。

「焦点は米側の対応だ。トランプ政権の国内政策に手詰まり感が強まるなか、外交は残された数少ないカード。支持率回復を狙って、強硬手段に打って出るリスクもある」とニッセイ基礎研究所・チーフエコノミストの矢嶋康次氏は指摘する。

<軍事行動は「テールリスク」>

もっとも今のところ、市場では、米国や北朝鮮が直接的な軍事行動に出る可能性は、非常に低い「テールリスク」だとみられている。

日経平均ボラティリティ指数.JNIVは10%近く上昇しているが、水準的にはシリアや北朝鮮などの地政学リスクなどを背景に上昇した4月の6割程度だ。日経平均オプションのプットをみても、著しいボラティリティの上昇はみられない。

「メジャーSQまで2週間を切ると、通常こうした話題に対しもっと過敏な反応が出る。割高でもプットを拾う動きなどが出て、ボラティリティが機能しなくなる。だが、今のところそこまで変な感じではない」(外資系証券トレーダー)という。

安倍政権への追い風になるとの見方もある。「弱体化が目立つ野党には、とても国防を任せることはできないとの論調が強まる可能性がある」(エコノミスト)という。安倍政権の支持率回復は、アベノミクス政策の継続期待を強め、市場では円安・株高要因になりやすい。

29日の東京市場は、売り一色というわけではない。防衛関連株はともかく、建設株や食料品株なども買われている。「Buy On Weakness。目に見える被害が出ない限り、売られて戻るこれまでのパターンを繰り返すことになりそうだ」とクレディ・スイス証券の株式本部長、牧野淳氏はみる。

<高まる緊張感と「偶発リスク」>

しかし、米・北朝鮮両国が軍事行動に出ないからといって、市場がポジティブなムードを取り戻すのは容易ではない。対話の道が狭まるなかで、米国や韓国が中心となって、国連安保理で経済制裁を強化する一方、北はミサイル発射を止めない「泥沼シナリオ」が警戒されるためだ。

「当面、米国は経済制裁を厳しくするしかないだろう。単独で介入して、自分で後始末をしなくてはいけなくなる事態は避けたいはず」(三井住友銀行チーフ・マーケット・エコノミストの森谷亨氏)とされる。

北朝鮮側も圧倒的な軍事力を持つ米国との「有事」は避けるとみられているが、厳しくなる経済制裁には、対抗策としてミサイル発射などを続ける可能性が高い。

今回のミサイル発射は突然のことではない。北朝鮮は、米国の軍事行動に対して、戦略的核戦力を行使して「厳しい教訓を与える用意がある」と警告。これに対し、米国のトランプ大統領が「炎と怒り」という強い言葉で非難。北朝鮮はグアム周辺にミサイルを発射する作戦を検討していると発表した。

この計画はいったん見送る方針が示唆され、米側も歓迎の意志を示していたが、北朝鮮が中止を求めていた米韓軍事演習が21日に始まり、北朝鮮は何らかの行動を示唆する見解を示していた。

対抗措置をエスカレートさせていくなかで、高まる緊張感。小さなことがきっかけとなって「偶発リスク」が高まることは、歴史が示している。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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