2017年12月2日土曜日

神鋼、三菱マテリアル、東レ 老舗メーカー不正の温床「トクサイ」とは何か?

 神戸製鋼所に続き、三菱マテリアルと東レでも製品検査データの改ざんが見つかった。日本を代表する製造業で、どうして検査データの不正が続くのか。3社に共通するのは素材メーカーであり、取引先が求める規格からはずれても合意があれば出荷できる「特別採用(特採、トクサイ)」と呼ばれる商慣行があることだ。冷戦終結後のグローバル化の進展で国際競争が高まり、納期やコストを優先せざるを得ない経営環境に置かれたことも不正が横行する要因となった可能性が高い。

「誤差の範囲」と勝手に解釈

 神鋼、三菱マテリアルの子会社、東レの子会社に共通しているのは、取引先の部品メーカーなどが要求した寸法や強度などの規格を下回っていたのに、規格に達しているように検査データを書き換えて出荷していたことだ。神鋼はアルミや銅製品など、三菱マテリアル子会社はゴム素材のパッキンや銅製品が問題となった。

 東レの子会社はタイヤメーカーに「コード」と呼ばれる補強材を納入していた。タイヤメーカーが求める強度の規格値は「260以上」だったのに、実際に測ったら258だった。製品を最終チェックする工場の品質保証室長は、この値を260に書き換え、「正規品」として出荷していた。

 タイヤメーカーが求める規格値260に対して、258はわずか1%にも満たない誤差で、品質保証室長は「規格値からのはずれが僅差で、製品の品質上問題はない」と勝手に解釈していた。東レも「規格内の製品と実質的な差はない」と説明するが、取引先との契約違反であることは間違いない。神鋼、三菱マテリアル子会社のデータ改ざんも同様で、取引先の要求を満たしていないものを「誤差の範囲」と勝手に解釈して出荷していた。

品質に問題がないことはお互いにわかっている

 製造ラインで規格にはずれた製品ができることはよくあるそうだ。いずれも取引先の部品メーカーなどに要求の規格を下回ったことを正直に伝え、お互いが合意して出荷していれば問題はなかった。規格を下回った製品でも特別に採用してもらう「トクサイ」は、素材メーカーとの取引では日常的に行われている。

 「これ、ちょっと規格を下回っちゃったんだけど、どうする?」

 「仕方ないな。今から作り直すのでは納期に間に合わないから、そのまま納入してよ。その代わり、値段は安くしてもらうよ」

 素材メーカーと取引先の部品メーカーなどの間では、こんな会話が日常的にあるという。素材の寸法や強度が多少ずれていても、品質に問題がないことはお互いにわかっているので、そんな商談が成立するそうだ。「アウトレット品のようなもの」と関係者は解説する。

売り上げを増やしたいから、トクサイを正規品と偽る

 問題なのは、素材メーカーにとってトクサイは正規価格からの値引きとなるため、売上高が少なくなることだ。できるだけトクサイを少なくして、売り上げを増やしたいのが素材メーカーの本音だろう。そこで、面倒な取引先との交渉を省き、検査データを改ざんして納入する不正が横行する結果となった。トクサイという商慣行がいけないのではなく、本来ならトクサイであるべき製品なのに正規品と偽ったところに問題の本質がある。

 神鋼は不正の原因について「当社は厳しい経営環境の中、収益重視の評価を進めてきた。収益貢献を強く求めるあまり、生産や納期を優先する風土が生まれ、検査の軽視が許容された」などと中間報告に記している。

「緩い社風」から「新自由主義的な成果主義」に変わった神戸製鋼

 神鋼のベテラン社員によると、1990年代前半くらいまで神鋼は「緩い社風」だったそうだ。しかし、冷戦終結後のグローバル化で国際競争が激しくなり、鉄鋼もアルミも業界再編が進み、「社内が新自由主義的な成果主義に変わった」という。工場では高い生産目標が立てられ、規格外品を少なくすることが求められた。

 神鋼の幹部も「過剰な生産目標や納期が不正を促したという見方もある。現場には生産へのプレッシャーがあったのではないか」と漏らす。神鋼、三菱マテリアル、東レとも本格的な原因究明はこれからだが、トクサイだけでなく、過度なコスト競争、収益優先の経営が生産現場に不正を生んだ可能性は高い。

(川口 雅浩)

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