Appleは、3月27日(現地時間)にプレス向けのイベントを開催。Apple Pencilに対応した、9.7型のiPadを発表した。新しいiPadは329ドル(日本では3万7800円)から。教育機関向けには299ドル(日本では3万5800円)で販売される。9.7型版の低価格iPadをリニューアルした格好で、プロセッサには「A10 Fusion」を採用。セルラー版は下り最大300MbpsのLTEに対応する。出荷は27日(現地時間)に開始された。
プロダクトマーケティング担当バイスプレジデント グレッグ・ジョズィアック氏は、「iPad ProのApple Pencilは、プロのアーティストやイラストレーターをも満足させるものだ。これをもっと多くの人に使ってもらいたい」と、新しいiPadについて語る。最上位機種の機能の一部を、普及価格帯のモデルに落とし込んだというわけだ。2017年に発売されたiPadよりCPUは40%、GPUは50%高速化しており、ARに対応したアプリも利用できる。
この新しいiPadのターゲットになるのが、「教育市場」だ。新製品の紹介を軸にした従来の発表会とは趣が大きく異なり、今回のイベントでは、学校での授業でいかにiPadが活用できるかの解説に時間が割かれた。イベントが開催されたのが、米イリノイ州・シカゴにあるレーン・テック・カレッジ・プレップ・ハイ・スクールの講堂だったのも、そのためだ。
イベントの冒頭では、CEOのティム・クック氏が「パワフルなコンピューティングのパワーを、学生や教師にも提供したい」と語り、プログラミング学習を推進する「Everyone can code」などのAppleの取り組みを披露。米国の教育改革者、ホーレス・マンの「教育は、人間が考えだした他のあらゆる工夫に勝って、人々の状態を平等化する偉大な働きをするものである」という言葉を引用しながら、「世界中の教室で、私たちの製品を使っていただきたい」と語った。新たに発表されたiPadは、そのための最適なデバイスという位置付けになる。
ジョズィアック氏によると、iPadは「教室だけでなく、机がなくてもいろいろなことを学べる」ツールだ。ユーザーである子どもが積極的に利用するのは、「多様性があるから」(同)。Swift Playgroundで「ロボットのプログラミングきたり、遊んでいる映像から物理的な速度や摩擦力を見たり、GarageBandやiMovieを使って映画を撮ったり、作曲をしたりできる」(同)と、応用範囲が広いのが魅力だ。iPad専用に開発された多数のアプリがあり、教育用のものだけで20万以上にのぼるのも、iPadが選ばれる理由になる。
アプリ側も、このiPadに合わせて進化させた。発表会では、iWorksのPagesに導入される「スマートアノテーション」という新機能を紹介。Apple Pencilを使って、ドキュメントの一部分に直接手書きの文字を加えるというデモが披露された。「Pagesとスマートアノテーションを使えば、紙を使う必要がない」(ジョズィアック氏)という。
さらにAppleは「教室で利用するための支援ツールも作成した」(ジョズィアック氏)という。それが、教師用のアプリ「スクールワーク」だ。スクールワークは、生徒に課す課題の作成や、進ちょく状況の管理といったことを一元的に行うアプリ。教師が教室内にあるiPadを一斉に制御でき、Apple IDを学校側が管理する「クラスルーム」を発展されたものになる。また、iCloudの容量も、教育機関では200GBに拡張された。クラスルームは、Mac用のβ版が6月にリリースされることも明かされた。
iPadに合わせて、サードパーティー製品としてLogitechの「クレヨン」も発売される。クレヨンと銘打っているが、実際にはApple Pencilの下位互換のような製品で、Apple PencilからBluetoothのペアリング機能を省いたものだ。これによって、筆圧の検知はできなくなったが、価格はApple Pencilの半分程度になった。
ジョズィアック氏は「ハード、ソフト、エコシステムを考えると、このiPadが生徒にも教師にも適したものだ」と語っていたが、本体そのものだけでなく、アプリや周辺機器などのエコシステムがそろっているApple製品の強みは、教育市場でも売りになると考えているようだ。
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また、Appleは「Everyone Can Code」と呼ばれるプログラミングのカリキュラムを提供している他、iPadで簡単にプログラミングの体験ができる「Swift Playgrounds」も提供している。Swift Playgroundsは、「初歩のところから、フル機能を持ったアプリまでを開発できる」(担当者)のが特徴。ゲーム感覚でiPadを触りながら、コードの書き方を学ぶことができ、ドローンやロボットなどの外部機器を制御することもできる。
Everyone Can Codeは既に2000校で導入されているといい、この取り組みを一歩進めた「Everyone Can Create」も発表された。プログラミングだけでなく、音楽やビデオ編集、写真撮影、絵といった分野まで含めたカリキュラムで、ClipsやGarageBandといった既存のアプリを活用していく。
教育市場、特に米国では、GoogleのChromebookが高いシェアを持ち、Appleはその牙城を切り崩そうとしている。Apple Pencil対応の新iPadを発表し、膨大なアプリのエコシステムをアピールした背景には、クラムシェル型の多いChromebookにはできないことをアピールしたいというAppleの狙いが見え隠れする。プログラミングやクリエイティブな教育を支援する取り組みを打ち出したのも、Appleの得意分野を強化する動きといえるだろう。日本でも、2020年のプログラミング教育必修化を受け、こうした取り組みが加速していくことになりそうだ。
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