2018年4月27日金曜日

焦点:日銀の政策判断、「景気重視」強まる 物価2%達成時期を削除

[東京 27日 ロイター] - 日銀は27日に公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、黒田東彦総裁の就任以降、記載を続けてきた物価2%目標の達成時期を削除した。背景には、景気拡大が続いているにもかかわらず、物価上昇が鈍い中で、達成期限にこだわって無理に物価を押し上げれば、物価上昇の起点といえる景気に悪影響が及ぶことを懸念した側面があるとみられる。

 4月27日、日銀は「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、黒田東彦総裁の就任以降、記載を続けてきた物価2%目標の達成時期を削除した。黒田総裁、9日撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

金融政策運営は景気重視の姿勢が強まっている。

黒田総裁は同日の記者会見で、展望リポートから目標達成時期を削除した理由について、同リポートの数字はあくまで見通しであり、目標の達成期限を示すものではないと強調。「市場の一部には2%の達成時期と捉え、政策変更と結びつける向きもある。計数のみに注目が集まるのはコミュニケーション上、適当でない」と説明した。

そのうえで物価2%を早期に達成するとのコミットメントに変わりはないと繰り返すとともに、今後の政策運営を念頭に置いたものではないとも語った。

もう1つ、物価目標達成時期の削除に関して、黒田総裁が何度も強調したのが、物価2%目標に向けた「モメンタム」(勢い)だ。16年9月に行った総括的な検証を受けて導入した現行の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」では、金融政策運営はモメンタムが維持されているかどうかで判断する方針を表明。物価2%の達成見通しの時期に焦点が当たりやすい現状を打開するタイミングを狙っていた。

<政策判断は「モメンタム」>

日銀幹部によると、モメンタムとは潜在的な供給力と実際の需要の差である需給ギャップの改善を通じ、企業の賃金・価格設定行動が変化して実際の物価が上昇。それを受けて人々の期待インフレ率も高まっていくメカニズムを指す。

日銀試算の需給ギャップは、景気拡大が持続する中で、足元で10年ぶりの水準にプラス幅が拡大しており、消費者物価(生鮮食品除く、コアCPI)の前年比上昇率は目標の2%には遠いものの、ようやく1%程度まで高まっている。

黒田総裁は会見で需給ギャップの改善にもかかわらず、中長期の期待インフレ率が鈍いことを「日本固有のリスク」とも強調した。

現在の日本経済は需給が着実に改善する一方、人手不足感の強まりを中心とした供給制約が意識されつつある微妙な局面にある。景気に比べて物価の動きが緩慢な中で、物価目標の達成期限にこだわった金融政策運営を行えば、好調な景気が不安定化し、かえって物価に悪影響が及ぶ可能性も否定できない。

今回の日銀による物価2%達成時期の削除は、市場にくすぶっていた達成時期と金融政策判断との関係を断ち切るとともに、モメンタムの起点ともいえる「景気」により配慮して政策運営を行う姿勢を明確にしたといえそうだ。

伊藤純夫 編集:田巻一彦

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