少なくともスウェーデンでは、自分が住む場所として選んだ土地で仕事を見つけるのが、一般的である。また、専業主婦が2%しか存在しないこの国では、当然のことながら、配偶者やパートナーも同じ土地で仕事をしているケースがほとんどである。
つまり、転勤を受け入れさせるには、まずは本人がすんなりとそれを納得すること、かつ配偶者やパートナーも承諾しない限り、成立することはない。また、子供がいれば、その学校のことも考慮しなければならない。
とにかく、スウェーデンでは、仕事よりもプライベートが優先順位では上位に位置するのである。日本でよく聞く「マイホームを建てたのに転勤」というケースは、こちらでは裁判沙汰となるか、それより以前に従業員は辞めていく。
スマホ1台で転職活動
では、会社側が、国内外問わず支社や関連会社で人材が必要となった場合はどうするのか? たいていの場合は社内外で人材を募集することになる。実際に私が勤める会社でも頻繁に、社内外でそういう公募がされている。近年は、どこの会社も自社のホームページはもちろんのこと、リンクトイン(LinkedIn)に募集内容を詳細に掲載する時代になってきた。
日本とは異なり、スウェーデンをはじめとした欧州では終身雇用や年功序列は一般的でなく、人材の流動性は高い。むしろ出世をしたいのであれば、社内で順番待ちをするのではなく、積極的に会社を変えていくという文化がある。
筆者自身も、リンクトインユーザーであり、プロフィールは公開してあるので、キャリアにマッチする求人が毎日大量にアップデートされてくる。気になる求人情報を目にしたら、採用担当=将来の上司へ直接電話やメールで連絡できる。ほとんどの場合、採用担当が決定権を持っているため、人事を介すことなく話もかなり早い。また、ヘッドハンターからの連絡も頻繁にあり、メッセージやメールは月に数回は届く。
ということで、スウェーデンでは、スマホ1台と親指のみで、転職活動並びに「転勤」活動も可能なのである。
会社ではなく行政から手当が出る
スウェーデンにおいて人材の流動性が高い理由は、大きく分けてふたつある。ひとつは、退職金制度が存在しないこと。もうひとつは、中途採用であっても出世競争の最後尾に並ぶ必要がないことだ。
長時間労働で有名な日本ではあるが、スウェーデン人は日本の退職金制度についてはほとんど知らない。定年時に数千万円もの退職金がもらえたり、転職を繰り返すと一般的には退職金が目減りしたりすることを、彼らに伝えると目を丸くする。
何年も先の退職金の額や出世競争について心配する必要のないスウェーデン人は、転職を考える際にも、純粋に自分のキャリアやどこに住みたいかを考えることができる。筆者は、31歳の時に新卒で入社し10年弱勤めたホンダを辞めるとき、30年以上先の退職金のことが頭をかすめ、転職を躊躇する理由のひとつとなった。
退職金だけでなく、各種手当も会社から支給されることはない。扶養手当や家族手当、通勤手当や住宅手当などは一切存在しない。同じ職務をこなすのに、妻子持ちでマイホームが遠い社員のほうが毎月の給与が多くなるということは、スウェーデンでは受け入れられない。
そのかわりに行政から手当が出る。子供手当もあるし、通勤に関しては一定の条件を満たせば確定申告時に税金の控除申請ができる。
前述の通り、どこに住もうがどんな家族構成であろうが、そのことで社員の間で給与として差が出ないような社会の仕組みとなっている。
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