2018年10月23日火曜日

軽減税率、財源に苦闘…インサイド財務省

 宿願編(2)

 

 

 首相による増税表明から一夜明けた16日。「やっと世間に『消費税率10%』を意識してもらえるようになった」。財務官僚たちのギアが上がった。

 にらむ先は12月中旬。与党が増税の詳細を示す税制改正大綱の決定まで2か月しかない。最大の課題は新たに導入される「軽減税率制度」を整えることだ。

 この制度は、飲食料品を中心に税率を8%に据え置き、痛税感を和らげるものだ。生活必需品の税率を低いままに抑える税制は、欧州で根づいている。

 財務省は当初、こうした制度を嫌った。税率を一律10%にするより、税収が減るからだ。「据え置き」ではなく「軽減」と表現するところに、財政当局としての考え方が読み取れる。

 だが、消費低迷の懸念が増税そのものを危うくしかねない今は、軽減税率の制度設計にいそしむ。

 作業はパズルさながらだ。軽減税率の導入が決まった2015年から、財務省は「軽減分に相当する金額を何で穴埋めするか」を考え続けてきた。その額は年間1兆円。導入が決まったとき、4000億円は、医療や介護などの自己負担額に上限を設ける代わりに税金を使う「総合合算制度」を見送ることで捻出した。

 差し引き6000億円をどう工面するか。筆頭候補に挙がるのが、たばこ税だ。今年10月を手始めに20年、21年と3段階で1本あたり計3円の増税が決まっている。最終的な税収増は2400億円を見込む。

 「困ったときのたばこ税」は税制改正の常とう句だ。03年の企業減税。06年の児童手当拡充。ともに、たばこ増税が財源となった。たばこは嗜好しこう品であるうえ、健康増進という政策目的を掲げれば、増税は比較的たやすいとされるからだ。

 昨年の所得税改革に伴う800億~900億円の税収増も候補の一つ。残りは3000億円程度となる。

 ここからパズルの難易度は高まる。「妙手が見つからない」(主税局幹部)

 所得税改革を担った税制第一課長の坂本もとる(1991年入省)、消費税を所管する税制第二課長の田原芳幸(92年)を軸に、他の税収をにらんだ議論が続く。

 浮上しているパズルのピースは二つある。

 一つは金融所得課税の強化だ。株式などの売却益に課される税率は一律20%。サラリーマンが働いて年収1000万円を得たときの所得税率と同じだ。数年前から財務省は、株式売却益の税率を25%に引き上げることを模索してきた。実現すれば、2500億円の税収増が見込める。

 だが、壁は厚い。「増税の流れになれば、業界として動く」。大手証券会社のトップは16日、強くけん制した。財務省から分かれた金融庁も業界側に立つ。

 日経平均株価は第2次安倍内閣の発足時、1万円近辺だった。今は2万2500円台。アベノミクスに水を差しかねない政策に、首相官邸はゴーサインを出すのか。「(株式の)税率が若干軽いのは事実だが、市場への影響に注視が要る」。財務省OBで自民党税制調査会長の宮沢洋一(74年)は慎重姿勢を崩さない。

 別のピースは「免税事業者から入るようになる税収」だ。現在、全国約500万の小規模事業者は消費税の納税が免除されている。その規模は国税分だけで3500億円に上る。軽減税率の導入に合わせ、取引に消費税の税率、税額を記載する「インボイス」が導入されれば、納税が増えるという見立てだ。

 ただ、インボイスの導入は23年10月で増税から4年もある。これまで納税していない事業者に期待する「皮算用」には、省内でも異論が少なくない。

 アイデアマンで「マジシャン」「策士」と評される坂本。調整力の田原。あと2か月の間に、主税局はどんな手を繰り出すのか。(敬称略)

 

 

 Q 軽減税率の歴史は。

 A 欧州では半世紀前から導入されている。フランスと西ドイツ(当時)は、1968年に日本の消費税にあたる付加価値税を本格導入した際、軽減税率制度を採用した。生活必需品の税率を抑え、低所得者が増税のしわ寄せを受けないようにするためだ。日本では、政府が2015年に軽減税率の導入を決めた際、消費税率が複数になることで小売業者などの経理が面倒になるとの反対もあった。しかし、欧州諸国では複数税率に対応した経理が長年、当たり前に行われている。

 Q 日本で買い物の際に複数税率が適用されるのは初めてか。

 A 初めてではない。89年の消費税創設に伴い廃止されるまで「物品税」があった。自動車やゴルフクラブ、高級腕時計など高額な商品を「ぜいたく品」とみなし、一定の税金が課されていた。例えば、廃止直前の税率では、中古車は非課税だったが、普通自動車の新車は工場からの出荷価格の23%が物品税として課されていた。生活に身近な飲料品も対象で、牛乳が非課税だったのに対し、炭酸飲料には5%が課税されていた。

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