Apple本社にてiPhoneとApple Watchの新製品を披露するイベントが開かれ、最新機種の「iPhone XS」「iPhone XS Max」「iPhone XR」そして「Apple Watch series 4」が発表された。
iPhoneの国内発売から10周年を迎えた2018年、iPhoneとApple Watchは大きな変化を遂げている。2017年に登場した「iPhone X」で予告されていた変化の方向性ではあるが、ここからまた新しいエキサイティングな未来の幕が開けそうな期待が持てた。
AI活用が一気に進化する"X時代”が到来
期待の1つ目は、iPhoneが高性能なAIデバイスに進化したことだ(ここでのAIは、主に機械学習のこと)。
一時は毎日のように「AI」や「機械学習」という言葉がネットの記事を飾っていたけれど、最近は落ち着いたし、もう流行は終わったのでは? と思っている人もいるかもしれない。だが、新しい技術はインターネットニュースの見出しへの露出が落ち着いたころから本格的な普及期に入る。iPhone XSシリーズ、そしてiPhone XRによって数千万人の人のポケットの中に高度なAIデバイスが収まること、そしてそれによる私たちの暮らしぶりや仕事の変化を想像すると、ワクワクしてくる。
今回の発表会ではアメリカ・プロバスケットボールリーグで殿堂入りを果たしたスティーブ・ナッシュ選手が登壇し、NEX Teamの「Home Court」というアプリの次期バージョンを紹介した。
このアプリを起動するとカメラ画面が現れ、ナッシュ選手がバスケットボールのシュート練習をしている様子が映し出された。映像の上には文字が表示されており、シュートをすると、カウンターの数字が1つ上がる。シュートが決まると、シュート成功カウンターのカウントも1つ増える。実はこれ、全てこのアプリの映像認識によって行っている。アプリが、カメラで写した選手、ゴール、ボールなどを認識し、ボールを投げた速度から、飛んでいく角度といったデータまで自動的に取得、計算した上で表示してくれる。
今後はこうした"AI世代のアプリ”が次々と登場してスポーツの練習の仕方も変わるだろうし、業務の安全性も変わっていくかもしれない。
こうしたAI世代のアプリの登場をこれから加速するのが、今回発表された全てのiPhoneに搭載される頭脳(CPU)「A12 Bionic」だ。映像認識などに用いられるCoreMLという機械学習用技術で効果を発揮する「Bionic」を冠したCPUは、2017年のiPhone Xから実は搭載されているが、iPhone XSシリーズで搭載されたものは、その処理能力が最大で9倍も高速になった(1秒当たり6000億回計算していた処理性能が、5兆回に増えた)。
他社製アプリでなく、本体の標準機能でもA12 Bionicの恩恵を受けている部分がある。iPhoneが他のスマートフォンと大きく違うのは、OS(ソフトウェア)を作っているのも、本体(ハードウェア)を作っているのも、本体の中にある「A12 bionic」を含む部品(プロセッサ)も、全てAppleが自社で生産しているところだ。
ものづくりの経験がある人なら、品質を左右するのは部品を寄せ集めて組み立てることではなく、組み立てた後の調整であることは痛いほどよく分かるだろう。
Appleは、既製品の部材を寄せ集めて仕様書通りに組み立てるのではなく、部材の準備の段階から、この相互調整を重ねている。タッチ操作への滑らかで自然な反応を始め、iPhoneを使っているときに感じる心地よさのほとんどは、このハードとソフト両側からの「高度な調整」のたまものだが、いよいよその「高度な調整」がAI・機械学習にも役立てられる日が来た。
これにより、今後はまるで魔法のように感じる新世代のアプリが増える準備が整ったわけで、この部分は本当に期待が大きい。
写真の撮り方を変えるカメラ機能
A12 bionicのAI処理性能は他社製アプリだけでなく、本体の標準の機能にも生かされている。
その恩恵を一番感じられるのがカメラ性能だ。詳しい説明は公式サイトに譲るが、これまでのようにレンズなどの光学部品の質向上やイメージセンサーの質向上、そして画像処理プロセッサの質向上も果たしていて、それだけでも十分に美しい写真が撮れるが、iPhone XSシリーズでは、それに加えて前述のA12 bionicの画像認識力を生かした補正が信じられない品質の写真を撮ることを可能にしている。
Appleでは、この質を実現するためにマイクロプロセッサチームとCoreMLのチームが、カメラ機能を開発するチームと密接に連携して「高度な調整」を行ったという。他のデジタルカメラメーカーやスマートフォンメーカーでは見かけない開発姿勢ではないだろうか。
どんなレベルの写真が撮れるかはApple公式サイトを見れば分かるが、できれば販売店の店頭で、さらに表示が美しくなったiPhone XSシリーズのSuper Retinaディスプレイを通して見てほしいし、試し撮りをしてみてほしい。
ちなみにAppleは、機械学習の後処理でもともと美しい写真にさらに磨きをかけるこの技術を「Super HDR」と呼んでいるが、実はiPhone XSのカメラにはもう1つ魅力的な機能がある。それは背景のボケ感を後から調整できる機能だ。
写真に写っている被写体と背景を区別して、背景部分だけをボカすことにより、まるで高級な一眼レフカメラで撮ったようなメリハリのある写真を撮影する――こうした機能は最近のスマートフォンには搭載されているし、iPhoneでも2年前のiPhone 7 Plusから実現していた。また、撮影した後に計算に基づいて照明効果を変え、例えば、背景を暗くする効果を加える機能、これはiPhone 8 PlusやiPhone Xから実現している。
そして、iPhone XSでは、こうしたボカし効果がさらに進化する。本格的なカメラにあるF値による絞り設定、これをAI(機械学習)を使って緻密に再現しているのだ(ここも、やはり品質こそが肝なので、実際に試し撮りして実感してみて欲しい)。
ポートレートモードで撮影した写真を表示した後、スライダーを左右に動かすとなんと撮影した後から絞りのF値を変えることができる。まさに日常での写真の撮り方や残し方、共有の仕方を変えてしまいそうなAI時代の新しいデジタル写真、これもiPhone XS世代が切り開く新しい時代を象徴しているような特徴ではないだろうか。
ちなみにこの技術、デュアルレンズ仕様のiPhone XSとXS Maxでは2つのレンズで遠近感を認識して被写体と背景を区別している(フロントカメラのFacetimeカメラでは距離センサーを活用する)。
今回、驚いたのはレンズが1つしかないiPhone XRでも、同じ機能が使えると発表されたことだ。詳細が分かるのは実機が手に入ってからになりそうだが、こちらは純粋にAI・機械学習の力だけで被写体と背景を認識して効果をかけているようだ。デュアルレンズとAI・機械学習を組み合わせたXSシリーズと、AI・機械学習だけのXRシリーズで写真の品質にどの程度の差が生まれるのかは大いに気になるところだ。
目いっぱい大きく広がった画面
AI機能は、ここから始まる新しい時代の予兆ではあるが、今回のiPhone新ラインアップの、すぐ分かるもう1つの特徴が本体の端から端まで広がった大きな画面だろう。
9月発売のiPhone XSは、2017年のiPhone Xと同じサイズで黒色をきれいに描き出す有機ELの5.8型ディスプレイを採用する。
10月発売のiPhone XRは、これよりも少しだけ大きく画面サイズも6.1型。ただし、ディスプレイは液晶で解像度もXSよりも低い。XSが1インチ辺り458ピクセル(ppi)の密度で2436×1125ピクセルなのに対し、XRは326ppiで1792×828ピクセルだ。
一方、大型モデルのiPhone XS Maxは、定評があったiPhone 7 Plusや8 Plusの本体サイズとほぼ同じだが、ホームボタンをなくして画面を端から端まで広げた6.5型の有機ELディスプレイを採用する。これ以上大きいと持ちにくさが勝る、という本体いっぱいに画面を広げた、まさにMaxという名前がふさわしいデザインになっている。画素密度はiPhone XSと同じ458ppiで2688×1242ピクセルだ。
iPhone XS Maxは(横向きで持った場合に限り)、より音の広がりが感じられる新設計のスピーカーとの連動もあり、映像コンテンツやゲームなどの迫力が増すことに加えて、メールやメモ、連絡先などの標準アプリでも、画面を左右に分割して一覧表示と内容が同時に見渡せるスプリットビュー形式に対応するなど、PlusシリーズのiPhoneの魅力だった情報量の多い表示を、さらに情報増量で形にしている。
この画面の大きさは映像の迫力や、より多くの情報を見渡せる快適さはもちろんだが、これからの時代のiPhone操作をより快適にする上でも重要な要素だ。
2017年に登場したiPhone Xを触ったことがある人は、最初は慣れ親しんだホームボタンがなくなったことで「操作に戸惑うんじゃないか」と心配したものの、これまで通り普通かつ直感的に操作ができて驚いたかもしれない。
確かにiPhone Xの操作は、これまでのiPhoneとほぼ同じ要領でできる。だが、Apple社内では「Fluid Interface」と呼ばれる新しい操作方法は、実はかなりよく練られた先進的なアイデアに基づいている。
実は数年前にはアーティスト、Bjorkなどの映像演出なども手掛けた世界的活躍で注目を集めるメディア・アーティスト、Marcos Alonso氏らがAppleにヘッドハントされており、その開発に携わっている。これがどこまで深く細かく考えられた操作体系かは、2018年のWWDCの「Designing Fluid Interface」というセッションを参照してほしい。
何げなく直感で実現できてしまっている操作の裏に、これだけ細かな配慮があったのかと驚かされる。逆に本当の使いやすさや快適さを実現するには、ここまで考えを巡らせないといけないのだ、といういい勉強にもなる必見の講義だ。
「Fluid」とは流体、液体のこと。これまでのiPhoneのように画面上の項目のタッチを中心とした操作から、画面の上に縦横無尽に指を滑らせて、1つの情報から別の情報へとまるで波乗りをするように滑らかに移動していく操作、それがFluid Interfaceだ。
2017年にiPhone Xで初めて形となったが、2018年、全ての新型iPhoneがこのX世代になり、ホームボタンを排除したことで、iPhone操作の主流はこれまでのタッチ操作からFluid Interfaceに変わっていくはずだ。そしてこの操作を心地よくこなすためには、本体の端ギリギリのところまで広がった大きな画面が重要だったのではないかと筆者は考えている。
成熟した会社ならではのイノベーション
今回、筆者が特に感心したのがAppleで環境問題を監督するLisa Jackson副社長が紹介した内容だ。「環境問題」と聞いた途端に「自分には関係ない」と読み飛ばす読者も多いかもしれない。今はそれでいい。
だが数年後には他のメーカーも無視できない状況が始まり、「そういえば、2018年のあの記事でそんなことを読んだな」と思い出すかもしれない。
AppleのiPhoneは既に累計で20億台を出荷し、今でも年間2億台を大きく上回るペースで売れている。他にも年間、数千万台から億台ペースで製品を製造しているメーカーがあるが、その規模での製造が進む度に、部品に使うレアメタルを求めて地球に巨大な穴が掘られ、水が汚れ、大きなエネルギーが消費される。
もはや無視できない問題になり始めていて、最近ではビジネスの世界でも「SDGs」という言葉をよく耳にするようになった(国連加盟193か国が2030年までを目標に実現を目指す「持続可能な開発目標」)。
その最先端を走っている企業の1つがAppleだ。同社は日常業務から、製品の製造、店舗の営業からiMessageでやりとりされる膨大なメッセージを交換するサーバの動作まで、その100%がAppleが賄う再生可能エネルギーで運用されており、環境負荷を気にせず安心して使うことができるようになっている(筆者はこうした取り組みを「エシカルIT」と呼んで日本でももっと関心を高めたいと思っているので、できれば読者の方々も応援してほしい。関連記事:製造業の転換点になるか――Appleが再生可能エネルギーで自社電力を100%調達)。
Jackson氏はさらなる取り組みとして、将来的にはiPhoneなどの製造で一切、資源の採掘が不要になるモデルに移行したい、という目標を語り、まだそれができない現状においてはせめて部材を信頼のおける提供社から供給を受けるという宣言をしていた。
実際にiPhone XSでは、メイン基板(ロジックボード)に一切品質を損なうことなくリサイクルされたスズを活用。これにより年間1万トンのスズの消費を抑えているという。さらに製品が長く使えるために取り組むこと、そして将来的には製品で使われた部材を完全にリサイクルできるようにすることを目標に掲げているとも宣言した。
長く使える製品にする上で重要なのが、製品の頑丈さ。そのために原子レベルの加工によって実現したスマートフォン史上最強のガラスを開発し採用したり、医療に使われているものと同じグレードのステンレススチールフレーム、そして水深2mのところに30分置かれても大丈夫な耐水性能も実現している。
ソフトウェアからのアプローチもある。iOS 12は5年も前のiPhone 5s以降のiPhoneに対応しており、しかも、動作を快適なスピードに引き上げるように工夫されている。つまり、最新の魅力的なiPhone XSやXRを買わなくても、5年も前のiPhoneを使い続けてOKだとアップルは言っているのだ。「なんだかんだいって1つの製品を長く使い続けることこそが地球環境には最も優しい」とJackson氏は念を押している。
リサイクルに関しては、10種類の異なるiPhoneモデルを完全に部品レベルに分解してリサイクルパーツにしてくれるAppleのロボットアーム、「デイジー」が紹介されたのに加え、使わなくなった古いiPhoneをAppleの側で回収して、安価な古いモデルを必要としている顧客に提供するか、顧客がいなければ責任を持って完全にリサイクルをするという「Apple Give Back」というリサイクルプログラムも発表された。
新iPhoneの開発アプローチはもちろん、こうした取り組みについても学ぶことが多い。なお、Jackson氏は語ってはいないが、製品を長く活用していく上でもう1つ無視できない要素は製品のモノとしての美しさではないだろうか。
スマートフォンの主役はハードウェアではなく、ユーザーが操作するアプリケーションだ。ディスプレイやフロントカメラ、顔認証機能Face IDのためのわずかなくぼみ以外、正面から見たときはほぼ全面がディスプレイのiPhoneだが、ステンレススチールの側面から背面のガラスまで部材の仕上げの美しさや発色をよくするための特殊加工で実現している(電波を通すためのアンテナ部分を目立たなくする工夫など、細かなところの改良も多い)。
これに対して、今回、形状的にも大きな進化があったのが「Apple Watch series 4」だ。特に新たに出たエルメスコラボモデルの2色混合バンドの美しさは、取材に来ていた女性記者たちを魅了していた。
大型化し命を守る機能が進化した「Apple Watch series 4」
3年前に登場したApple Watchは、3世代目まではかたくなに同じ形状を守ってきたが、世界で最も売れている(スマートウォッチではなく一般のものも含めた)時計の座を獲得した今回、初めて形状を大きく変更した。新世代のiPhone同様に画面を大胆に30%ほど大型化したのが特徴で、それにあわせて本体の形状も一回り大きくなっている。
これまでは38mmモデルと42mmモデルの2つがあったが、それぞれ40mmモデルと44mmモデルに大型化された。ちなみに、既にApple Watchを持っていて、お気に入りのバンドがある人のために、38mmモデルのバンドは40mmモデル、42mmモデルのバンドは44mmモデルでそのまま使えるようになっている。
画面の大型化にあわせて通話のための機能(主にマイクでの集音やスピーカーからの音)などが改善された他、デジタルクラウンと呼ばれるリュウズ(竜頭)を回したときにカチカチというメカニカルな触感が加わり、より操作がしやすくなるとともに心地よさもアップした。
他にも中のマイクロプロセッサや加速度センサーなどの精度が大幅に向上している。そしてなんといっても画期的なのが、これまで備えていた心拍計に加えて、新たに心電図(ECG)が取れるセンサーが内蔵されたことだろう。
製品発表会にはアメリカ心臓協会の代表が登壇し、これがいかに画期的なことであるかを熱弁した。ただ、残念ながら日本で発売されるApple Watchでは、この心電図を取るためのアプリが排除されているようだ。これはおそらく現時点で厚生省の認可が下りていないためだろう。
同様に新Apple Watchには、転倒をしたことを察知して、しばらく、操作がないと自動的に救急や近親者に連絡をするという機能が追加された。既にiPhoneの心拍計が何人かの命を救ってニュースになっているが、この機能も多くの人の命を救ってくれそうで期待をしたい。だが、残念ながらこちらの機能も日本版では提供されない。
医療業界に関わりの深い方が、Apple Watchのこれらの機能が認可を受けるまでの道のりの長さを紹介しているブログ記事があるので紹介しておきたい。(「心電図計測が可能な Apple Watch Series4 が日本で入手できるようになるためには」/Yousuke HATANAKA)。
道のりは長いが、日本にも必要な機能なので、これを機会に多くの人に関心をもってもらい、日本が他国に比べて医療コスト削減で遅れることがないように声をあげていきたいものだ。
このように今回発表されたApple Watch series 4とiPhone XSシリーズ、XRシリーズは、いずれもスマートフォンの新しい活用、スマートウォッチの新しい活用を切り開くもの。ここからどんな未来が生まれるのか非常に楽しみな存在だ。
(取材協力:アップルジャパン)
0 件のコメント:
コメントを投稿