首都圏の鉄道、特に私鉄や地下鉄はすっかり“直通運転”だらけになった。都心部の山手線内部に地下鉄を挟んで、郊外区間はそれぞれ別の会社の私鉄路線として走るというパターンだ。おかげで、朝の通勤などでは乗り換え無しで都心部までアクセスできるから、実に便利である。ところが、気をつけておかないと思わぬ悲劇にも見舞われる。なにしろいつも利用している最寄り路線も地下鉄を経て別の私鉄に乗り入れて、聞いたこともないような駅まで走っていってしまうのだ。万が一にも乗り過ごしてしまった日には、ただただ絶望が待っているだけである。
「きっと駅前には木々の生い茂る公園があるんでしょうね」というわけで、そんな絶望の終着駅シリーズ。今回は、東武東上線の森林公園駅に行ってみた。東武東上線は地下鉄副都心線を挟んで東急東横線、そしてみなとみらい線に直通する。この区間の最ロングラン列車は、元町・中華街~森林公園間。その距離は88.6km、所要時間にして約1時間50分である。で、片方の元町・中華街駅は、わざわざ訪れなくてもどんな駅なのか想像がつく。駅名の通り横浜の中華街にほど近く、山下公園などの観光スポットも多いところだ。もし乗り過ごして元町・中華街に来てしまっても、なんとかなりそうである。
ところが、一方の森林公園駅だ。ハッキリ言って、地元住民でもなければどんな駅なのかイメージも湧かない。せいぜい、「きっと駅前には木々の茂る公園があるんでしょうね」ぐらいなものだろう。それだって駅名から連想しただけのことで実際はよくわからない。地図で改めて確認すると、その場所はなんと小江戸・川越よりもはるか先。距離的なイメージで言えば、ほとんど熊谷とか秩父に近いのだ。
いざ元町・中華街駅から2時間弱の旅へ果たして森林公園駅、どんな駅なのか。せっかくなので、みなとみらい線の元町・中華街駅から森林公園駅を目指して2時間弱の列車の旅をすることにした。乗り込むのは特急「Fライナー」。特急と言っても特別料金を払う必要なく、それどころか副都心線に入る渋谷駅から終点までは急行に様変わりするから、不慣れな人にとってはややこしい。朝夕の通勤時間帯を除く日中に運転されていて、毎時4本が走る。うち2本が東武東上線直通の森林公園行で、残り2本が西武池袋線に直通する。ちなみに、「Fライナー」の名前の由来は「Fast」「Five」(副都心線・東横線・みなとみらい線・西武池袋線・東武東上線の5路線のことらしい)「Fukutoshin」の頭文字を頂いたものだとか。
さて、元町・中華街駅は始発駅なのでもちろん座ることができる。しばらくは地下を走るので車窓を楽しむでもなく、気がつけばうとうと。お尻に痛みを感じて目を覚ましたら、まだ列車は渋谷駅手前を走っていた。元町・中華街~渋谷は約35分である。渋谷から和光市駅までは副都心線を経由する。途中の新宿三丁目駅や池袋駅では乗客の乗り降りも多いが、東武東上線に入る和光市駅から先はだんだん乗客も減ってゆく。川越を過ぎたあたりでは車内はすっかり閑散。1車両あたりの乗客が4、5人程度になったところで、終点の森林公園駅に到着した。きっとこの列車の中に、始発から終点まで乗り通した客は筆者だけだ……。
駅前にあった看板「森林公園ここから2.9km」だいぶ前置きが長くなってしまったが、ようやく森林公園駅。さっそく橋上駅舎から北側に出てみると……広々とした駅前広場にはたくさんの木々が植えられていて、その名に違わぬ“森林ぶり”である。お、やっぱり森林公園駅前には森林公園があるんだな、と思う。ところが、広場の先まで少し歩みを進めてみると、「森林公園緑道 ここから2.9km」という看板とそれこそ森のように木々の茂った散歩道が出迎える。そう、森林公園駅とは実のところ名ばかりで、由来となった「国営武蔵丘陵森林公園」は看板通り3km近く離れているのだ。ハイキング気分ならともかく、とても駅から歩いてゆくような場所ではない。きっと、この駅ができた当時には本当に駅の周りに何もなく、だからこそだいぶ離れた公園の名前を駅名に頂いたのだろう。
池袋まで1時間、住むには悪くないのかもでは公園が遠いならば他に何があるのか。公園に近い北側には他にいくつかの住宅と駐車場。南側に出ると、こちらも駅前広場には木々が植わって「森林公園駅らしさ」を醸し出す。こちらは北側と比べると幾分栄えているようで、少し歩けば新興住宅地もあるしコンビニもある。池袋行快速急行に乗れば約1時間で池袋まで着く上に、早朝の通勤時間帯でも始発列車なら確実に座れる。きっと物件も安いだろうし、もしかしたら住むには悪くないのかもしれない。
と、そんなこんなで森林公園駅、「周りには新興住宅地と遠く離れた森林公園への遊歩道がある駅」という結論である。駅周辺を散策しているときに出会った人は、ナゾのビラを配るお年寄りの集団と葬儀会社のバスで駅にやってきた集団、そしてコンビニで働く外国人留学生だけだった。つまるところ、わざわざ訪れるべき何かは、残念ながら特にないのである。
終着駅と言えば……やっぱりあった車両基地鉄道ということで言えば、この森林公園駅の少し西側に東武東上線の車両基地「森林公園検修区」がある。もともと東上線の車庫は川越付近にあったのだが、おそらく開発によって手狭になったのだろう、1971年に現在地に移転してきたものだ。そしてこの車庫移転と同時に森林公園駅も開業した。結果、Fライナーのみならず池袋発着の東武東上線列車の多くが森林公園駅を終着とするようになったのだ。このあたりは小金井や籠原、国府津などの他の絶望の終着駅と似たようなエピソード。終着駅の共通要素といえばいいのかもしれない。
最後に、もちろん森林公園駅の近くにはホテルなどの宿泊施設やネットカフェなどはなかった。だから最終電車で寝過ごしてしまえばもうどうにもならない(森林公園への最終は0時16分和光市発の準急で1時6分着。戻ることも進むこともできない)。なので、どうしようもなく眠い場合でもなんとか川越で目を覚ますことをおすすめしておきたい。
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