[東京 2日 ロイター] - 貿易赤字削減をめざすトランプ米大統領の各国への圧力が強まる中、日本の自動車各社は米政府による新たな輸出規制をめぐって視界不良の状況が続いている。
北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉は車関税をゼロとする条件の厳格化で合意した。日系各社は米現地生産の拡大だけでなく、今後開始する日米物品貿易協定(TAG)の交渉の行方次第で対米輸出への高関税や数量規制への対応も迫られる可能性がある。
<生産体制・部品調達見直しでコスト増も>
NAFTAの枠組みを前提に北米事業を進めてきた日本の自動車メーカー。3カ国の協定が維持されたことにまずは胸をなでおろしているが、マツダ(7261.T)の丸本明社長は2日の会見で、3カ国で合意できたことは「大きな前進」と歓迎とする一方、新たな協定(USMCA)の要件に「適応すべく検討を進めていく」と気を引き締めた。
合意された自動車関税の撤廃条件の1つが、同3カ国域内の部材調達比率の62.5%以上から75%以上への引き上げ。マツダが米国で販売している小型車「マツダ3(日本名アクセラ)」は、現在すべてメキシコ産で、新協定の75%に「達していない」ため、条件を満たすためにサプライチェーン(供給網)は「当然、変わってくる」と丸本社長は話す。
トヨタ自動車(7203.T)は「今回の合意が自動車生産に関する関税(という選択肢)を無くすことや自動車産業における不透明性の解消につながることを期待している」(広報)とコメント。「現在、生産・輸出・サプライチェーンへの影響を確認すべく合意内容の詳細を精査している」。
日産自動車(7201.T)も「合意内容を精査中」とした上で、新協定の内容が「従業員やサプライヤー、顧客への影響が十分に考慮されていることを期待する」(広報)と述べた。
NAFTA改定合意では、時給16ドル以上の労働者が乗用車で40%、ピックアップトラックで45%に相当する部品を生産するという賃金条項も盛り込まれた。低賃金を魅力としてメキシコやカナダでの生産を進めてきた日本メーカー各社にとって痛手だ。メキシコでの部品工場で働く労働者の時給の相場は7ドル程度。16ドル以上に上げるのは「かなり難しい」(現地サプライヤー幹部)。
現在、トヨタとホンダ(7267.T)の2社はカナダに、両社と日産、マツダの4社がメキシコに工場を構えている。対米輸出をめぐる状況が大きく変わる中で、自動車メーカー各社は新型車の開発段階から調達体制も含めて使用部品を見直す必要があり、一定のコスト増は避けられなくなりそうだ。
<対米輸出に総量規制も>
NAFTA改定合意による懸念に加え、日本車メーカーには大きなリスクがまだある。TAGの交渉中は自動車への追加関税は発動されないことになったが、トランプ米大統領にとっては対日貿易赤字の削減が大きな政策課題のひとつとなっている。
2017年の米国の貿易収支によると、対日貿易赤字は688億ドル(約7兆7000億円)。このうち自動車と同部品の赤字額は492億ドル(5兆5000億円)と71%を占める。米国は日本からの輸出分に最大25%の追加関税をかけるか、日本に輸出の総量規制を求める可能性がある。
SBI証券の遠藤功治シニアアナリストは「日本が追加関税の回避を強く求めるなら、米国はUSMCA以上の厳しい輸出総量規制を提案してくるかもしれない」と警戒する。
今回のNAFTA改定での合意内容では、トランプ米大統領は自動車に25%追加関税を課す場合でも、カナダとメキシコはそれぞれ年間260万台の数量枠であれば、高関税を課されずに米国に乗用車を輸出できる。260万台は両国の現在の輸出水準を上回っている。
自動車調査会社カノラマジャパンの宮尾健アナリストも日本の輸出総量規制のほうが厳しくなるとみる。ゼネラル・モーターズ(GM.N)など米国の自動車メーカーもメキシコに工場を持っているため、「NAFTAの数字をいじると米国企業も影響を受ける。一方、日本の対米輸出総量を規制しても、米国企業にはマイナスの影響がほぼない」ため、同氏は米国側が強気に出る可能性があると懸念する。
日本の自動車メーカーが昨年、米国で販売した新車700万台程度。このうち、約25%が日本からの輸出だ。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の杉本浩一シニアアナリストは、日本車各社は「次のモデルから米国で生産し、米国製部材を使う比率を上げろという要求を突きつけられている。(問題は)各社がこれに対応できるかどうかだ」と話している。
白木真紀、田実直美 編集:北松克朗
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