「豊洲新市場」のトラブルガイド(3/3)
とけだす冷凍マグロにあふれる排水溝、死亡事故が懸念される暴走ターレ……。豊洲新市場の“内”からは、こんなトラブルの声が聞こえてきた。だが、問題点は“外”にもあった。潜入取材による「トラブルガイド」最終回である。
***
豊洲新市場は、違法駐車に取り囲まれている。
「築地は電車でも行けたけど、豊洲はモノレール、でなきゃバス。アクセス悪いから、仲卸は車かバイクで来る。だから渋滞が起きるわけだけど、それなのに駐車場が少ないんだから問題だよ。結局、みんな、ああやって勝手に道路に止めるしかないんだよ」
そんな60代の仲卸の話を、さるベテラン仲卸が継いで説明してくれる。
「仲卸売場棟には、買い出しの人用の駐車場が約1千台分ありますが、そこに申請が3千台分あった。その結果、築地では月にせいぜい2万円だった駐車場代が、場所によっては5万円程度にまで高騰しているんです。で、ここに入れない人が、市場内の外周道路に路上駐車していて、それが1日に延べ数百台はあるんじゃないですか」
駐車場不足の影響は、市場内の飲食店にもおよんでいる。「築地とんかつ小田保」の田中宏明社長は、
「築地では午前3時に開店していましたが、今は5時半から。駐車場が2台分しか貸してもらえず、始発前は従業員が2人しか向かえない。それだとお客さんをお待たせしちゃうので開店を遅らせたのが実情です」
と話すが、ほかにも飲食店の不満は尽きない。テレビでもお馴染みの「印度カレー中栄」の円地政広社長が嘆いて言う。
「設計は本当に最悪。100くらい要望して、二つしか聞いてもらえませんでした。普通の飲食店じゃあり得ないのが、搬入口とお客さんの入口が並んでいること。うちは鶏ガラとか使うけど、お客さんには絶対見せたくないわけです。電話の回線の位置もひどい。飲食店ではレジ横やカウンターの端とか、水回りから離すものなのに、厨房のど真ん中にあるんです」
一事が万事、か。また円地社長をふくめ、みな口を揃えるのが、常連客の減少について。ラーメン「ふぢの」の店主は、
「うちはほとんど常連だったのに、今は逆転して7対3で観光客。観光客が来てもいいけど、ブームが去ったあとが怖いんです」
と不安を口にする。ご存じのように、今は観光客でごった返している豊洲市場だが、はたしてブームは続くのだろうか。
「なんでこんなとこ、作ったんだろう」
見学コースには、ターレに乗って記念撮影できるスポットがあれば、四季折々取引される魚の詳しい説明もあり、英語も併記されている。だが、市場というより工場見学のようで、魚がし横丁や飲食店街もショッピングモールのようだ。
実際、3階からガラス越しに競りを覗く日本人夫婦は、「これだけ?」と戸惑いを隠さない。外国人観光客たちも悲しそうな表情を隠さず、持参した大きなカメラをほとんど使わない。訪日外国人に一番人気のスポットが築地だったことを思えば、インバウンドへの影響も心配になる。
さる仲卸が、吐き捨てるように言った。
「なんでこんなとこ、作ったんだろう。この産直の時代、中央市場とか意味ないでしょ。実際に荷主は、本当にいいものはじかに取引してて、ここで取引されるのは、5番手から6番手くらいの魚なんだよ。我々仲卸は、そういうのを買って2割から3割の利益を乗せて、ブランドに乗っかって売ってるだけなんだよ」
その言葉には少々ルサンチマンを感じないでもないが、築地から豊洲に移って、そのブランド力も暴落の危機にある。実際、この新市場の将来に希望を抱く人がどれだけいるのだろう。なにはともあれ、我々はせいぜい、トラベルならぬトラブルを楽しむとするか。
「週刊新潮」2018年10月25日号 掲載
Read Again http://news.livedoor.com/article/detail/15500762/
0 件のコメント:
コメントを投稿