定年後のセカンドライフをどう過ごすか。再雇用で働きながら、現役時代に行けなかった妻との旅行や新たな趣味に挑戦する。退職金で自宅のローンを完済し、子どもや孫に資産を残す作業に取り掛かる。穏やかな隠居生活を楽しむ。誰しもが自分なりの人生設計を描いているはずだ。
定年後は自然の中で自給自足の生活を送りたい──そう考えて実践しているのが東京育ちのMさん夫妻だ。
50代の時に参加した農業体験で野菜作りに興味を持ち、定年を機に思いきって長野県の古民家を買い取り、休耕地を借りて野菜作りを始めることにした。当面は会社の再雇用制度で週4日働きながら週末に長野に通って少しずつ畑を広げ、65歳の年金満額支給を迎えたら長野に移住して本格的に自給自足生活を始めるつもりだ。
「移住に先立つ古民家のリフォームなどに費用がかかったので、貯金は退職金など2500万円ほどで少し心許ない気もしますが、生活は年金でなんとかやりくりできると考えている。収穫した野菜は友人たちにも分ける予定で、農業収入はあてにしています」(Mさん)
準備さえ怠らなければ、年金65歳支給の時代はそうしたセカンドライフを計画し、実行に移すことも可能だった。だが、いま、退職後の人生設計、老後の資金計画を根底から覆す改悪が進んでいる。
「年金75歳支給」時代の到来だ。本誌・週刊ポストは、内閣府の有識者会議(今年7月)で「年金75歳選択支給」の議論が行なわれており、年内にも閣議決定される『高齢社会対策大綱』に盛り込まれる可能性が高いことを報じてきた。
◆これまでの生活設計が音を立てて崩れていく
年金制度に詳しい社会保険労務士の北村庄吾氏は、「公的年金の支給開始年齢は定年年齢プラス5歳に引き上げられてきた。65歳定年制の完全実施で年金が70歳支給になるのは既定路線といっていいが、政府はその先、年金完全75歳支給に向けた準備を始めた」と指摘している。
それをにらんで安倍政権は高齢者の定義を75歳以上に改め、「働き方改革」という名目で年金が空白となる65歳から74歳の間は高齢者に働いてもらって自助努力で生活費をまかなう仕組み作りを急いでいる。年金70歳支給どころか、いっぺんに年金75歳支給に引き上げ、高齢者に“死ぬまで働いてもらおう”という狙いがはっきりしてきたのだ。
そうなると、「自給自足のセカンドライフ」など夢のまた夢になる。『家計の見直し相談センター』代表でファイナンシャルプランナーの藤川太氏が語る。
「自給自足といっても米などの主食や肉、魚などは買うことになるので食費が大きく減るわけではありません。それでも、Mさんのように60歳時点で2500万円の貯金があれば、これまでなら年金収入と貯金を少しずつ取り崩していくことで夫婦とも85歳くらいまでの生活設計は成り立っていました。
ところが、年金が75歳支給になると前提は大きく変わってしまう。夫婦で年金月額約22万円の標準モデル世帯の場合、10年分の年金収入約2640万円が減らされる。そうすると定年時点での貯蓄は2500万円ではとても足りず、退職金を合わせて5000万円の貯金があっても、85歳前に食いつぶしてしまいます」
年金75歳時代には貯金5000万円あっても足りないというのである。
※週刊ポスト2017年9月8日号
Read Again https://news.biglobe.ne.jp/trend/0828/sgk_170828_6076689967.html
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