トランプ米大統領は1日、米国の安全保障を理由に鉄鋼とアルミニウムの関税を大幅に引き上げると明言した。欧州や中国は報復措置に動く構え。米国発の貿易戦争になれば、世界や米国の経済を冷やしかねない。影響を識者に聞いた。
安井明彦氏(みずほ総合研究所欧米調査部長) 実際に発動された場合は、米国経済に負の影響があるだろう。輸入財の価格上昇により米国内で製造する企業の競争力が低下するとの懸念が自動車業界、缶に鉄を使う飲料品業界などから上がっている。製品価格の上昇は消費者にも負担となる。
より注意すべきは、グローバルな通商システムへの打撃だ。他国が報復措置に出れば、世界的に貿易の流れが混乱するリスクがある。米国が世界貿易機関(WTO)ルールでグレーな安全保障を理由とした輸入制限に踏み切ることで、他国が同様の措置で追随する悪い前例になりかねない。各国がWTOを経ずに直接の報復措置に出れば、WTOの権威も揺らぐ可能性がある。
見逃せないのは、トランプ政権内の混乱が、今回の決定に反映されていることだ。側近の辞任やクシュナー上級顧問への捜査などでトランプ大統領は孤立感を強め、衝動的に激しい措置に動きやすい環境だ。トランプ政権を統率して来たケリー首席補佐官の神通力も効かなくなっていることが明らかになった。
今回の措置はそうした政権内の混乱に、ナバロ氏やロス氏らの保護主義派が、うまく乗じた。トランプ氏は昨夏から高関税をかけたがっていたが、コーン国家経済会議(NEC)委員長らの自由貿易派が止めていた。無視された形になったコーン氏の辞任が取り沙汰されるようになると深刻だ。
金子実氏(大和総研主席研究員) 米国がメリットとして考える鉄鋼産業の再活性化は、短期的にみれば、鉄鋼産業の株価上昇も含めてあり得る。ただ、鉄鋼は自動車など多くの製品に使われている。輸入制限で供給が細れば鋼材の国内価格は上昇し、鉄を使った米国製品の国際競争力は低下する。トランプ大統領は減税などで海外に流出した資本を米国に取り戻そうとしているが、鋼材価格が上がれば、米国は生産にふさわしくない立地とみる声も出てくるだろう。その意味でも米国の競争力回復を阻みかねない。
米国経済にはマイナスの面が大きいが、与える影響はそう大きくはないだろう。それよりも、安全保障を理由とした輸入制限措置への反応が気にかかる。
可能性は高くないが、世界貿易機関(WTO)が今回の輸入制限を協定違反と判断すれば、反発した米国のWTO離れに拍車をかけかねない。一方、他国が対抗措置を講じることで、米国産業が影響を受ければ、米国内で輸入制限への反発が起こり11月の中間選挙を前に、輸入制限の対象国を絞り込む可能性もある。どの関係国も対抗措置をとらず今回の米国の輸入制限が放置されると、中国などが同様に安保を理由に輸入制限を発動する可能性も出てくる。
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