米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は21日、米連邦公開市場委員会(FOMC)後の初の記者会見に臨んだ。主なやり取りは以下の通り。
――経済見通しと来年の利上げ見通しを引き上げた一方で、インフレ見通しは変わっていない。懸念はないのか。
「経済見通しは上方修正し、失業率見通しは下がった。インフレ見通しはわずかな上昇にとどまっている。金融危機後に10%だった失業率が現在は4.1%まで低下したが、インフレと賃金上昇率は非常に緩やかな上昇にとどまっている。これがインフレ見通しがわずかな上昇にしかならない背景だ」
「利上げを必要以上に遅らせれば、後々に利上げのペースを速めなければならない。そうなれば経済成長の期間を縮めることになる。一方、利上げを急激に進めれば、インフレを2%以上に保つことが難しくなる。インフレ期待を2%に保てるようにすることが重要だ。我々は速くも遅くもない中間の立場で金融政策に動くよう務める。中間の立場とは、景気が順調に拡大する限り、フェデラル・ファンド(FF)金利の誘導水準を緩やかに引き上げることだ」
――均衡のとれたインフレ目標とは何か。2%をどれだけ上回れば、どの程度の期間上回れば高すぎると判断するのか。
「我々の金融政策とインフレ率の長期的な目標においては、2%を上回っても下回っても、それが長く継続する状況を懸念する。過去5年間の低インフレ率について目標を達成しないことを許容したと判断するつもりはない。我々は常に2%の目標に向かって動いてきた。2%からの乖離の数値や期間について言及はできない。我々が目指すのは、インフレと雇用の維持という2つの要素のバランスをとることだ」
――減税による景気刺激策があっても、経済見通しはわずかしか引き上げていない。一段の減税によって成長率3%を達成できるという米政権の主張は過大評価か。
「我々が発表する経済見通しは、FOMCメンバー18人それぞれの予測を集めたものだ。2.7%という経済見通しはその中間値であり、周りに各個人の見通し数値が存在する。3%を達成するには、生産性の向上や労働参加率の大幅な上昇が必要だ」
――雇用増加数や労働参加率、賃金上昇率などが、どの程度になれば完全雇用状態以上の景気拡大と判断し、金融政策に影響するのか。
「中立的な失業率というものを数値的に打ち出すことはできない。15~20くらいの指標に着目する必要がある。失業率の低下に加え、賃金上昇率、物価上昇率など労働市場における多様な指標を踏まえて判断する。理論的には、これ以上低下できないという失業率の水準が長期間続けば、インフレは加速する。だが、今はその状況ではない」
――金利の中立的水準が高めになると、金融政策にどう影響するか。
「金利や失業率の中立的水準や、潜在的経済成長率など長期的な経済指標は、短期的に上下するものではない。FOMCメンバーの見通しもゆっくりと変化する。たとえば財政刺激の効果で中立金利の水準が引き上がることはある。実際に現在0.1%程度上がった。しかしFOMCメンバーは依然として、中立金利を非常に低い水準とみており、上昇したとはみていない。ただ、今後上昇する可能性は認める」
――新議長として記者会見の回数を増やすことを検討しているか。
「記者会見の回数は慎重に検討する。まだ決めていない。金融政策の内容について、より明確なコミュニケーションを図るよう務める。ただ、記者会見を増やすことが金融政策変更のシグナルになるわけではないことを明確にしたい」
――財政刺激策によって連邦予算の赤字が増えるが、金融緩和縮小への影響はあるか。
「バランスシートの縮小は慎重な議論に基づいて決めたものだ。金利引き下げを必要とするような著しい景気停滞がない限り変更しないというスタンスに変わりはない」
――トランプ大統領が中国への新しい関税を発表する予定だが、関税のインフレへの影響を議論したか。
「複数のFOMC参加者が関税に懸念を示した。複数のFOMC参加者が、各国の財界首脳にとって貿易政策が先行きの懸念材料になっていると報告した」
――年内の4回の利上げに必要な要素は何か。経済見通しは健全に見えるが、3回の利上げ見通しにとどまった理由は何か。
「我々は今回のFOMCで一つの政策決定をした。FF金利を0.25%引き上げるという政策だ。経済見通しはあくまで参加者個人の見解をまとめたものだ。中央値は経済見通しの変化によって変わる」
――通商政策において、FOMCの経済見通しに影響を与える懸念材料は何か。
「FOMC参加者は今後の通商政策への懸念を聞いたと報告した。懸念は広範囲に及ぶ報復措置などだ」
――ここ数カ月の政策変化は生産性の伸びの見通しに影響を与えたか。
「生産性の伸びは過去6年間で平均0.5%と金融危機以降弱い状態が続いている。財政政策と生産性との関係性については、税制改革は追加投資などを促進する効果があり、生産性に影響を与えるだろう。理論上、減税策は労働参加を促進する。国として生産性に重点を置くことは重要だ。供給面の効果を期待するが、その規模や時期の予測はばらばらだ」
――2020年の政策金利見通しは3.5%程度で、経済に中立的な金利水準より高いが、これによりFRBが景気後退を招くリスクはあるか。
「20年の政策金利見通しの中央値は3.4%で、中立的な金利水準の予測値より高い。これは穏やかな引き締め政策を示していると私は見る」
――金融政策の手段について現行のリバースレポを使った金利誘導を維持する意向か。
「現行の金融政策のメカニズムは非常にうまく機能している。これを長期的な金融政策手段とするかどうかの議論や判断は、まだしていない。差し迫った問題という認識ではない」
――現在の資産市場でバブルの兆候は見られるか。
「金融危機以降、金融の安定についてモニタリングしてきた。金融市場の脆弱性は高くない。特に、大きな金融機関における資本比率や流動性は高く、リスクへの理解やストレステストによる管理もうまくできている。問題が発生したとしても、これらの金融機関の破綻への対応は可能だ。金融危機前のような過度なリスク負担も見られず、家庭のバランスシートもよい状態だ。非金融機関の借り入れはやや増えているが、不履行率は非常に低い。資産市場では、一部の株式や不動産価格が歴史的な水準より高くなっているが、住宅市場では見られない。これは重要なポイントだ」
――金融規制の緩和については。
「上院が可決した法案では、FRBが毎年ではなく定期的にストレステスト(健全性審査)を実施する権限を得る。まだ何の決定もしていないが、慎重に検討したい」
――財政刺激策がもたらす追加的な成長に関して、供給サイドの効果があるとはっきりしているのか。それとも現時点では単なる推測なのか。
「FOMC参加者はさまざまな見解を持っているが、要約すると、財政刺激策によって、少なくとも今後3年は需要が大きく増えるだろうと考える。供給面でも効果があるだろうというのが一般的な見方だ。法人減税と支出は投資増を促し、生産性を高める傾向がある。個人減税もいくらかの労働供給効果を見込める。(しかし)供給面の効果が現れるには時間がかかると予測され、どれくらい効果があるかはあまり明確ではない」
――貿易政策に関して、関税を課した場合のインフレへの影響といった懸念について議論はあったか。
「新しいリスクだという点のみ議論した。これまでリスクは低いとみられていたのが、先行きに一段と重大な影響をもたらすリスクになったと。それ以上は具体的に話さなかった」
――米中の貿易戦争が起きた場合、世界の経済見通しに与える影響は。
「特に議論しなかった。FRBは貿易政策を行わない。特定の国との特定の状況についてはコメントを差し控えたい」
――現状の賃金の伸びについて。
「生産性が非常に低く、物価上昇率も低いので、その点からみれば低い賃金伸び率は辻つまが合う。しかし一方で、労働市場は逼迫しており、労働力不足が伝えられているにもかかわらず、賃金伸び率が低い点に驚いている」
――選挙中の利上げを好まないホワイトハウスから、圧力を受ける可能性を懸念していないか。
「我々は選挙サイクルを考慮しない。FRBが議会から与えられた責務と、その実現のための手段に集中すると信頼してもらっていいい」
――長短金利差の逆転が景気後退に先行する傾向がある点について。
「過去の多くの景気循環をみれば、そうした傾向があるのは事実だ。しかし、多くは単に物価上昇が制御できない状況になり、FRBが引き締めをせざる得なくなり、それが景気後退をもたらした。現在はそのような状況にない。景気後退の可能性が通常より特に高いとは考えていない」
Read Again https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28438150S8A320C1FF2000/
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