[東京 5日 ロイター] - 日米金利差が3%を超えれば、ドル高/円安に振れるのか──。麻生太郎財務相の国会答弁で、関心が薄れ気味だった日米金利差とドル/円の相関が再び注目されている。ただ、米長期金利が3%に届けば株安要因になると警戒されているほか、足元で縮小する米国の長短金利差は景気減速を示唆し、今後はドル安/円高圧力が高まるとの見方もある。市場の円安予想は、麻生財務相が強調するほどには高まっていない。
<3%超えて円高の期間も>
3月29日の参院財政金融委員会で、麻生財務相は「少なくとも(米国の)金利がいま2%台で、こっちはゼロ。限りなく3(%)に近いところまで来ている。これまでの長い、数十年間の歴史をみると、(日米の)金利差が3%ならドル高/円安に振れる」と語った。
麻生財務相は金利の年限には触れなかったものの、現在2.74%付近(5日時点)と、3%に近くなっているのは日米10年国債の名目金利差だ。過去を見れば、6%以上に開いた1980年代前半や、4%半ばまで開いた90年代半ばから98年ごろにかけてはドル/円JPY=EBSが堅調に推移していた。
伝統的に日本と米国は平均して2%程度のインフレ格差があり、名目で2%以上金利差が開けば実質金利でも米国の方が優位となり、ドル高となる傾向も観測される。
ただ、99年夏ごろから2000年にかけては、日米金利差は4%後半まで広がったが、ドル/円は120円台から101円台まで下落した。当時はITバブルの真っ最中で「株買いの円買い」と、今とは真逆のトレーディングが隆盛。財務省はドル買い/円売り介入を繰り返したが、効果は乏しかった。
長い目で見れば、ドル/円と日米金利差の連動性は高いが、短期では日米金利差が3%以上に開いていても、必ずしもドル高/円安が進むわけではないことには注意が必要だろう。
<逆転間近の米長短金利差に警戒>
今後のドル/円の方向性を見極める上では、日米金利差よりも、米国の長短金利差を見るべきだとの指摘も出ている。
現在、米10年債利回りとのスプレッドは、2年債利回りで50ベーシスポイント(bp)付近、5年債利回りは20bpを割り込んでおり、逆イールドが視野に入っている。中長期金利が上昇しないまま、あと2回、計50bpの利上げが実施されれば、政策金利と連動性の高い2年債利回りと10年の金利差は逆転してしまう可能性が大きい。
逆イールドの出現は一般的に景気後退の1─2年前に観察されるとされ「利上げ打ち止めが中心的話題となり、長期ゾーンの金利が抑制されやすい」(第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミスト)とみられている。
米国の景気拡大局面は18年4月で106カ月に達し、戦後2番目の長さに並ぶ。3月のISM製造業景気指数は59.3と依然高水準だが、2月の60超えからはやや低下。トランプ減税効果もあり「高原状態」はしばらく続くとの見方もあるが、来年以降を見据えれば、減速懸念も今後、徐々に高まってきそうだ。
米金利が上昇し、日米金利差が3%以上に開いたとしても、金利上昇が株安のきっかけとなり、リスクオフの円買いが強まれば、金利差からのドル高/円安圧力がかかる可能性がある。
実際、過去をみると、日米金利差が3%以上に拡大している中、10年債利回りと2年債利回りのスプレッドは89年、00年、06年付近で逆イールドが出現。その後、タイムラグがあるが、ドル/円は90─95年、02─05年、07─11年にかけて下落基調をたどっている。
<金利上昇でリスクオフの円高も>
10年米国債金利が3%を超えていけるのかという疑問もある。米国の政策金利はオーストラリアを超えて今や主要国で最も高い水準に達している。現在、米連邦準備理事会(FRB)がドット・チャートで示す中立金利見通しは2.9%だが、中立金利は「『利上げの終点』であると同時に『長期金利の上限』とも目されてきた」(みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミスト)。
今年2月、米金利の上昇が米株安とリスクオフの円買いを招いたのは記憶に新しい。みずほ銀の唐鎌氏は、これまで米金利上昇で懸念されるはずの株価下落や、金利感応度の高い消費・投資の減速といった「負の側面」が考慮されてこなかったと指摘。今後は「ドル/円を押し上げるより、株価下落を通じて円高を引き起こす方がありそうだ」とみる。
三菱UFJ銀行の内田稔チーフアナリストは、米長期金利が中長期的に3%を試す展開があり得るとしつつも、その場面ではリスクオフの円買いに加え、「米債価格の下落が投資家の米債売却を促してドル安につながる」とし、日米金利差の3%超えによるドル高/円安には懐疑的な見方を示す。
日米政治リスクや米中貿易戦争など「ストーリーとしてセクシー」(市場筋)なテーマが落ち着けば、やや地味な金利に市場の関心が徐々に戻ってきそうだ。ただ、金利と為替の関係は複雑。1つの相関で先行きを予想するのは危険かもしれない。
杉山健太郎 編集:伊賀大記
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