「米国は賃金も物価も順調に上昇している。日本はなかなか十分に上がってこない」。日銀の黒田東彦総裁は15日、金融政策決定会合後の記者会見で力なく答えた。今週、米国は利上げし、欧州は年内の量的緩和終了を決めた。しかし日本の物価は鈍く、目標の2%が展望できず緩和を続行せざるを得ない。日銀の金融政策の正常化はほど遠く、米欧にとりのこされている。
米連邦準備理事会(FRB)は13日、1.75~2.00%へ利上げした。パウエル議長は「緩和的とは言えなくなる局面が確実に近づいている」とし、利上げの加速も視野に入れる。ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁は14日「しっかりと幅の広い経済成長はまだ続いている」と、年内の量的緩和縮小を決定。米国に遅れながらも、金利正常化へ歩を進めた。
2人とは対照的に黒田総裁の表情には覇気がなかった。黒田総裁は「15年続いたデフレ、低成長がデフレマインドとして企業や家計に残っている」と従来の説明を繰り返すしかなかった。
物価の勢いの差はここ数カ月ではっきりしてきた。米国はすでに物価上昇率が2%で、景気の足取りはしっかりしている。欧州は景気にやや弱さも残るが、物価は1%強で上昇も見込める。だが日本の物価は春以降に「伸び率が縮小している」(黒田総裁)。
日本も景気や雇用は回復を続けている。日銀は「いずれは物価が上がるはず」と説明してきたが、その時期は一向に訪れない。次回7月30~31日の決定会合で新たな物価見通しを示すが、下方修正は避けられない。黒田東彦総裁は次回会合に向け「さらに議論を深めていく必要がある」と説明。日銀は調査統計局を中心に物価が上がらない背景の再点検に着手している。
ただ、日銀には打つ手がない。物価上昇を急いで追加緩和に動けば銀行の収益を圧迫することになり、副作用が大きくなってしまう。金融緩和の持続性を損ね、かえって物価目標の達成を遠ざけてしまうおそれもある。黒田総裁はこれまで「できるだけ早期」の目標達成を訴えてきたが、物価の鈍さを甘受した上で「粘り強く現在の強力な金融緩和を続けていく」しかなくなっている。
日銀は4月から物価目標の達成時期を示すのをやめたが、それまで掲げていた「19年度ごろ」もかなり厳しい情勢だ。少なくとも強力な緩和は2~3年続く。5年前、物価目標を世界標準の2%に引き上げた日銀。だが、米欧が金融正常化に向けて歩みを進めるなか、日本だけが動くに動けず取り残されてしまっている構図がはっきりした。
(後藤達也)
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