2018年11月25日日曜日

「なかったことにして」 パート主婦、103万円をこえ客前で悲鳴

「なかったことにしてくれない?」。10月下旬、東京・港区のドラッグストアに、悲鳴にも似た声が響き渡った。その時のことを、主婦のJ子さんは「何があったの?って驚くような懇願ぶりでした」と、振り返る。J子さんによれば、レジで店員たちが次のようなやりとりをしていたというーー。

店員A「えー、困るの。もう103万超えちゃってるじゃない」

店員B「いやあ、そう言われても」

店員A「前の●●店長なら、こうならないように調整してくれたのよ」

店員B「でも、もう記録につけちゃってますからね」

店員A「だから、なかったことにしてくれない? 記録を消せばいいのよ」

J子さんは「客のことなんかそっちのけで、店員たちが大声がやりとりしていました。103万円を超えると、何がどう大変になるんでしょうか」。会社員であるJ子さんにとって「103万」の壁は聞いたことがあっても、理解できない制度だ。

「なかったことにして」とは、働いたことをなかったことに、という懇願のようだ。また話の内容から察するに、懇願した店員Aはパート主婦。相手の店員Bは社員のようだ。店員たちをそこまで慌てさせた「103万円」。それを超えると一体、何が起こるのか? 小野郁子税理士に聞いた。

●103万円以内は「所得税が課税されず、扶養に入れる」

ーー店員は、なぜそんなに慌てていたのでしょうか

「『103万の壁』とは、パートなどで働いている方の給与の年収が103万以内なら、本人の所得税が課されず、夫や親などの所得税の扶養に入ることができるという金額の壁のことです」

ーーなぜ、103万円なのでしょうか

「103万という数字は、給与所得控除65万円+基礎控除38万円=103万円からきています。

去年までは配偶者控除として、夫の所得税の扶養に入るには妻の年間の合計所得金額が38万円以下であるという条件がありました。つまり給与収入のみの場合、103万円以下で給与所得控除65万円を控除して38万円の所得となり、夫の配偶者として扶養に入る事ができ、夫側でも所得税の計算上、38万円の配偶者控除を受けることができました」

ーー「できました」ということは、変わったのですね

「そうです。実はこの金額、今年から税制改正により変更となっているのです。配偶者控除に妻の年収だけでなく夫の年収の要件が新たに加わっています。

また、配偶者特別控除の改正もありました。配偶者特別控除とは、配偶者に38万円を超える所得があるため配偶者控除が受けられない場合でも、所得金額に応じて、一定の所得控除が受けられる制度のことです。具体的には、夫婦の給与や夫側の所得税の控除額で異なります。

たとえば、夫の給与年収が1120万円以下の場合には、夫の所得税の計算上、38万円控除となる妻の年収の上限金額が、103万円から150万まで上がっているのです」

ーーでは、Aさんはまだ働いても大丈夫、という可能性がありますね

「そうです。ただし、あくまでもこれは夫の所得税控除のみで、150万まで働くと、妻本人の所得税が課されます。さらに給与年収が130万(大会社でのパートの場合106万)を超えると、夫の社会保険の扶養から外れて、妻本人が社会保険に加入する必要があります。個々のケースで税や社会保険が今回の改正でどう影響を受けるか判断する必要がありますね」

ーーちなみに「なかったことにして」と訴えていたようです

「さすがに、なかったことにはできません」

【取材協力税理士】

小野 郁子(おの・いくこ)税理士

港区品川駅の女性税理士。女性の税に関する専門家として、女性経営者の法人・個人の税務・確定申告・法人化の相談の他、クラウド会計や国際税務についてもサポート。

事務所名 : 小野郁子税理士事務所

事務所URL: https://sub.shinagawatax.com/

(弁護士ドットコムニュース)

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