2018年11月27日火曜日

ドコモショップ完全予約制の「期待と不安」――販売スタッフが漏らす「本音」

完全予約制になるというドコモショップ

 ドコモショップが、2019年から完全予約制になる。

 混雑が常態化し、ときには2時間以上の待ち時間を案内されるドコモショップの待ち時間が、完全予約制になることで解消され、待たされるストレスから解放されることで、サービス満足度が向上すると考えられている。

 店舗で働いているスタッフにとっても、ユーザーを長時間待たせないで済むというメリット以外に、「閉店時間ギリギリに駆け込んできたお客さまのため、閉店時間を大きく過ぎても対応しなければならない場面が減る」と好意的な意見も聞こえてくる。

 しかし、果たして完全予約制はユーザーやスタッフが手放しに喜んでいいものなのだろうか。

 ドコモショップスタッフや家電量販店の販売スタッフに聞き取り調査を行ったところ、完全予約制に対する「期待と不安」が浮かび上がってきた。

「時間通りに来たのに」とかえってクレームに?

ドコモショップの待ち状況を示す、店内の電光掲示板

 冒頭にも書いた通り、現役のドコモショップスタッフに話を聞くと

 「お客さまを待たせずに済むので、手続きを進める側も丁寧に対応ができそう」「閉店時間ギリギリの駆け込み対応のために常態化している残業を減らせる」――など、完全予約制を歓迎する声が聞こえてくる。

 しかし、筆者が聞いてまわった中には否定的な考えを持つスタッフも少なくなかった。

 「予約制になったことが認知されるようになるまでは、予約のないお客さまとトラブルになりそう」「予約制だからこそ、予約した時間にすぐに手続きに入れないお客さまが出てしまうと、今まで以上にクレームに発展しそう」という、完全予約制への移行に伴うトラブルを懸念する声だ。

 ショップは長時間の待ち時間が当たり前だが、「この日なら待たされないのでは」と考え来店する利用者も少なくない。

 その「この日なら」と時間を作ってきた中で、完全予約制を知らずに来店しても店舗は対応できず、この利用者には諦めてもらうしかない。そこからクレームに発展する可能性を危惧する声は大きかった。

 また、予約した時間に他の都合(例えば1回線の契約変更で予約したが、ついでに他の回線の契約変更も依頼するなど)も合わせて来店する利用者が増えることも予想できる。このような利用者の手続きに時間がかかり、予約時間通りに来店した次の利用者を待たせることで、クレームに発展しないかという心配の声も聞こえた。

 ただ、これらの懸念は事業者、ショップが「完全予約制」を周知し、利用者も理解していけば防げることだ。

 移行トラブルの懸念以上に、現役のショップスタッフから聞こえてきたのは「もうからなくなるのでは」という心配だった。

完全予約制でショップはもうからなくなる?

ドコモショップ受付の発券機

 「完全予約制になると1日に応対できるお客さまの数に限りが出る。今と違い、販売できる台数が減り、受付できる手続きの件数も減るのは確実で、減った分だけショップに入る手数料が減ってしまう」(都内のドコモショップスタッフ)

 ケータイショップは1台当たりの利益と、一定以上の台数を販売した際に事業者から払い出される「インセンティブ」で経営が成り立っている。

 さらにドコモショップのような「キャリアショップ」では、料金プランの変更受付オプションサービスへの加入推進といった、手続きから得られるインセンティブに頼る部分は大きい。

 完全予約制とするならば、販売台数やオプション獲得が落ち込むことは予想できる。新たな枠組みに対するインセンティブの仕組みが見直されなければ、今後やっていけないのではないかという懸念が複数のスタッフから上がっている。

完全予約制は「ショップ以外」への影響も

 携帯電話を取り扱うお店は、ドコモショップのようなキャリアショップだけではない。

 今回の完全予約制はドコモショップに限った話だが、ドコモ製品を販売する家電量販店のスタッフからも、完全予約制がスタートした後について心配の声が上がっている。

 「ショップの予約ができなかったので、ここで手続きできないか、という相談が増え、販売に注力できなくなるのではないか」(家電量販店の販売員)

ドコモショップのしわ寄せが家電量販店に?

 家電量販店はキャリアショップと違い、販売のみを行う取扱店だ。ある程度は操作説明などの相談に対応もしているが、プラン変更や修理の受付は原則行えない。

 ショップに行くとよく見かける、スマートフォンに慣れないユーザーに窓口以外で操作案内をするというようなライトな業務も、予約がなければ提供できなくなってしまうかもしれない。

 もしそれが断られてしまうとなれば、予約の必要がない家電量販店がその受け皿として利用されてしまう可能性は大いに考えられる。

 完全予約制に移行した後も、一部の時間帯や受付業務についてはイレギュラーとして受け付ける可能性も示唆されてはいる。しかし、オンラインでの手続きや電話での受付など、自身である程度の契約変更ができる中でも「予約なしのショップ来訪」が絶えないのは、そうした自身での手続きが難しいユーザーの要望をくみ取る受け皿としてショップが機能しているからではないだろうか。

 サービス向上のためには変革も必要だが、「なぜユーザーはショップに足を運ぶのか」も同時に考えていかないと、利用者の満足度は今以上に下がる可能性もある。そうなれば、結果的にNTTドコモ自体の評価が下がることにもつながるのではないだろうか。

ライター:迎悟

キャリアショップも家電量販店も併売店も経験した元ケータイショップ店員。携帯電話が好き過ぎた結果、10年近く売り続けていましたが、今はライター業とWeb製作をやっています。

連載:元ベテラン店員が教える「そこんとこ」


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