肉ブームもすっかり定着した感があるが、その一翼を担う米国産牛肉の品質が変化する可能性があるという。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏がレポートする。
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本気の米国産牛がやってくるかもしれない。今月15日、食品安全委員会の専門調査会は輸入可能な牛の月齢を「生後30か月以下」とする規制撤廃を認める評価書案をまとめた。今後、パブリックコメントの募集などを経るにしても、近いうちに現在の「30か月」規制は外される方向へと舵は切られた。
そもそも30か月規制に至ったきっかけは、2000年代初頭のBSE渦にある。BSEは21か月程度の月齢であれば、異常タンパク質の量が感染牛(46か月齢相当以上)の数百分の1〜千分の1程度と推計されるという。
つまり当初は万一BSEが発生したとしても、月齢が若い牛のみを輸入対象とし、脊柱などの「特定危険部位」を除去すれば「人への健康影響は無視できる程度のリスク」という捉え方からスタートしている。
これまでのざっくりとした流れを追うと次のようになる。
2003年12月 アメリカでBSEの発生が確認され、直ちに米国産牛の輸入が禁止された。
2005年12月 「20か月以下」「骨なし」牛肉の輸入が再開される。
2006年1月 除去が義務付けられている牛の脊柱が検疫手続き中の米国産牛肉から発見され、再び輸入全面停止。
2006年7月 「20か月以下」「骨なし」の輸入再開。
2013年2月 米国産牛肉の輸入可能月齢が「30か月以下」に引き上げられ、骨付き牛肉の輸入も再開される(その他フランス産など、一部国からの禁輸措置も解除)。
2019年 米国産牛の月齢制限解除(見込み)。
今回、アメリカ牛を輸入する際の月齢制限解除へと舵は切られたが、実は2012年10月の食品健康影響評価で「「全月齢」の場合と「30か月齢超」の場合のリスクの差は、あったとしても非常に小さく、人への健康影響は無視できる」という報告はされていた。
だが、月齢制限を解除すると、(実際には市場にはほぼ流通しないであろう)46か月齢相当以上の牛肉が混入するリスクへの向き合い方や説明が難しくなる。輸入牛肉については、国内生産者からの反発もついて回るため、段階的な規制緩和を選択する必要があったという側面も否めない。
実際にはアメリカでも「と畜される肉牛の9割以上は30か月齢未満」(米国食肉輸出連合会)である上、生産者にとって長期肥育は飼料代や疾病リスクなどのデメリットも多い。少なくとも現時点では、今回の規制解除が国産牛や日本の生産者に及ぼす影響は軽微だと考えられる。
もっともこれはあくまでも「現時点」の話である。日本は米国牛の輸出量の24%を占める世界最大の輸出相手国(2位は19%のメキシコ、3位は15%の韓国)。日本のニーズによっては、現在1割以下だという30か月齢以上まで牛を肥育する可能性もある。
近年「(全体的な傾向として)和牛の味が落ちた」と言われることがある。その理由に、「24〜25か月での早出しが増えたから」と言う人がいる。
基本的に牛肉は成体の方が味は濃厚になりやすい。成牛になるほど肉質は硬くなっていくが、味は乗る。肉質のやわらかい和牛でも長期肥育となればコラーゲン結合が強くなるが、熟成技術の進歩により、ある程度なら食感のコントロールもできるようになってきている。
だからこそレストランのシェフが注文時に「30か月以上」「ドライエイジング」というような指定をするわけだが、肉質×枝肉の重量で売価が決まる生産者にしてみれば、その差となる数か月分の飼料代や、疾病などで出荷できなくなるリスク、キャッシュフローも気にかかる。早出しを選択してしまうのも無理からぬことではある。
だが、現在流通している国産の牛肉が、食べ手が求めている味ではないとしたら……。そして本来のニーズに近い味を米国産牛が実現し、国内スーパーの店頭に並ぶとしたら……。
日本人がやわらかい肉を好むのは、主食である「米」のやわらかさが基準になっているという説がある。だがこの50年あまりで米の消費量は半減し、肉の消費量は10倍に増えた。スタンドステーキ店の店頭には行列ができ、塊肉やステーキをライスなしで日常的に食べる人も増えている。
嗜好が変化しつつある日本人の舌に、本気の米国産牛はどう響くのか。その時、日本人にとっての一大ブランド「和牛」はどうなるのか。「味」は生産物の価値を計る物差しではあるが、この話は食の安全や生産者の後継問題、さらには食料自給率など多岐に渡る課題を日本人に突きつけている。最終的に選択するのはほかでもない、われわれ消費者である。
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