2018年1月29日月曜日

アングル:「第2のコインチェック」警戒する金融庁、問われる業界の意識

[東京 29日 ロイター] - コインチェックから巨額の仮想通貨が流出した問題で、金融庁は同社に業務改善命令を出すとともに、再発防止のため国内の仮想通貨取引所を対象にセキュリティー態勢などの調査に着手した。金融庁幹部は、別の取引所がサイバー攻撃を受ければ、業界そのものが沈みかねないと警戒する。しかし、業界団体は分裂しており、対応は遅れがち。今後、日本の仮想通貨取引所のセキュリティー対策が底上げされるかどうかは不透明だ。

<極めて不十分な報告>

危機意識が低過ぎる――。28日、コインチェックから仮想通貨NEMが約580億円相当流出した経緯や今後の対応について報告を受けた金融庁幹部は、こう漏らした。

26日にコインチェックからの仮想通貨の巨額流出が発覚すると、金融庁は実態把握に着手。同社に対して資金決済法に基づいて報告徴求を発し、事実関係と発生原因、顧客への対応、被害の拡大防止策、資金繰りの4点についてヒアリングした。 しかし、28日の報告は「極めて不十分だった」(金融庁幹部)という。

コインチェックの大塚雄介COOは、被害にあった約26万人への総額約463億円の補償について、自己資金で行う方針を示したものの、金融庁には返済原資について具体的な報告をしていないという。

企業統治改革の旗振り役の金融庁には、コインチェックのガバナンス体制は未熟に映る。同社が26日夜に開いた会見では、両者で過半の株式を保有する和田晃一良社長と大塚雄介取締役COOが出席しながら、経営の基本的な指標さえ開示されなかった。

金融庁は「(経営数字を)答えられないという状況が、すでに体制整備ができていないことの表れ」(幹部)と厳しく指摘。「あの会社のガバナンスはどうなっているのか」(別の幹部)との声さえ上がっている。

<別の取引所へのサイバー攻撃を警戒>

金融庁は、大規模なサイバー攻撃が別の仮想通貨取引所を襲う事態を警戒し、対策を打ち出した。26日、国内で仮想通貨取引所を営む約30の事業者に対して文書を送り、システムの再点検を要請した。報告を分析し、体制が不十分な取引所には立ち入り検査に入る。

複数の金融庁関係者は、仮にコインチェックのようなセキュリティー体制の不備があれば、資金決済法にもとづき業務改善命令を発動する可能性があるとの見方を示している。

昨年には、韓国の取引所のユービットが2度のハッキング攻撃で資産を盗まれた末に破産に追い込まれた。「第2、第3のコインチェックを出してはならない。今度、大規模なサイバー攻撃があれば、日本の仮想通貨取引所全体の信用が打撃を受ける」と幹部は警戒感を強める。

同庁には世界に先立って「登録制」の制度を導入し、仮想通貨業界を法規制の下に収めたという自負もある。

<業界団体が分裂状態>

しかし、金融庁の思惑とは裏腹に、危機意識が取引所業界に広がっていないとの見方が同庁にある。

その1つの例が、仮想通貨取引所の自主規制団体の分裂状態だ。業界には最大手bitFlyerやコインチェックが参加する日本ブロックチェーン協会と、マネーパートナーズが主導する日本仮想通貨事業者協会の2団体が併存。両者は統合に向けて協議中だが、決まっていない。「業界が一大事なのに内輪もめしている場合か」(金融庁幹部)との声が出ている。

仮想通貨事業者協会は29日、広告のあり方を見直すことを発表したが、金融庁内には対応が遅きに失したとの声がくすぶる。

みずほ中央法律事務所の三平聡史弁護士は、仮想通貨取引所のセキュリティー対策について「信託銀行や信託会社の信託の利用や、保険の活用なども1つの対策だろう」と話している。

しかし、利用者の拡大を優先してきた業界が、システムや安全性確保に資金を振り向けるかは不透明だ。金融庁のある幹部は「有名タレントのCMや政治活動にお金を使う余裕があるんだったら、システム構築に資金を振り向けるべきではないか」と話している。

和田崇彦 編集:田巻一彦

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