何を言っても被害者の気持ちが晴れることはない。多くの被害者を出した成人式の振り袖トラブルで、「はれのひ」の篠崎洋一郎社長(55)が26日、ついに姿を現した。同日、破産手続きが開始され、負債は総額11億円にも上るが、「ない袖は振れぬ」と債権者に返される見通しはほぼない。謝罪した篠崎氏は詐欺の意図を否定し、現時点では刑事罰に問うことは難しい。だが、あの旅行会社「てるみくらぶ」の詐欺事件と同じ構造である以上、立件の可能性は残っている。
多くの新成人とその家族を悲しませた揚げ句に姿をくらましていた篠崎氏が26日午後、横浜市の会見場に姿を見せた。
セキュリティーの観点から、報道陣に会見場所を事前に口外しないよう要請するなど、実に物々しい雰囲気に包まれた。ピリピリムードが漂うなか篠崎氏は、落ち着かないようにスーツのジャケットのボタンを指で何度もいじっていた。
会見と同日、横浜地裁は同社の破産手続きの開始を決定。破産申立代理人によると、確認できている負債は約6億3500万円だが、調査中のものを合計すると約11億円に上るという。債権者数は約1600人で、このうち約1300人が消費者。消費者の負債は4億円程度とみられる。
同社が全店で保管している振り袖は計1163着で、購入とレンタルの比率は約4割が購入分だという。転売の噂も根強く流れたが、篠崎氏は「一切していない」と否定した。
「一生に一度の成人式を台なしにした。私にすべての責任があります。本当に申し訳ございません」と謝罪し、その後も何度も頭を下げた。
九州や海外へ逃げているなどの報道にも「上海へも鹿児島にも行ってません」としたものの、バックレた成人式当日からずっと神奈川県内の知人宅に身を潜めていたことを明かした。
雲隠れや金額的損失を与えたことは最悪の行為だが、数日前までに営業不可の知らせをするだけでも被害者が救われた可能性はある。「今思えばお客さまにご連絡する機会はあった」と認めたり、「私も幹部も本当に精一杯やった」と自己弁護する姿勢に、感情を逆なでされた被害者も多いだろう。
会見でも詐欺の認識を問う質問が多かった。篠崎氏はそのたびに「そういうつもりはない」と否定。今のところ、詐欺罪を成立させる要件は揃っていない。会見に同席した同社の代理人弁護士の吉田進一氏は「一般論ですが、最後の契約が10月中旬。M&A(企業買収・合併)の交渉がダメになったのが12月26日。そうすると難しい」と語る。
客と売買を行った後に、銀行の融資や身売り先を探すなどの資金繰りに走っていたことが証明された場合、事業を続ける意欲や見込みがあったと認定されるため、詐欺に問いにくい。また、多方面から指摘されるような計画倒産なら「在庫がないはず」(吉田氏)。
一方で、今回の件は旅行会社「てるみくらぶ」の事件と非常に似通っている。法曹関係者は「破産した『てるみくらぶ』の社長らも業績をよく見せた決算書を提出して、銀行から約2億円の融資金をだまし取ったとする詐欺容疑で逮捕されている。『はれのひ』も資本金や売上高を過大に見せていた疑いがある。さらに、『てるみくらぶ』より被害規模も上とあれば、司法も動かざるをえないだろう」と指摘する。
はれのひでは、事実上の破綻が近づいてもなお、現金での支払いを客に急がせていた。このことについて篠崎氏は「顧客サービス。現金だと5%引くと言っていた。キャンペーンの一環だった」と言ってのけた。
とはいえ、被害者は篠崎社長が刑事罰を受けることよりも「金返せ」「思い出返せ」という思いが強い。篠崎氏は幼い娘を持つ。娘に成人式で着せたいのは「やはり人の親ですから、振り袖ですよね」と人ごとのように話し、娘が同じ目に遭ったときは「怒るでしょうね」と語った。それなら、なおさらなんとかできたのではないかと言いたくなる。
債権者集会は6月20日に開かれる。今後、被害者に個別に謝罪する意向があるか問われると「する必要が…」と言いかけてから「日にちもかかりますし…。しなきゃいけないのかなと思います。今の話を聞いて」と“本性”をのぞかせた。初めて被害者と対峙したとき、篠崎氏は何とわびるのだろうか。
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